2003年6月6日 第156回国会 衆議院 法務委員会 |
案件:担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案 |
[1] 質疑内容(30分) 「地籍の整備状況について」
この日の法務委員会では、「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」、いわゆる「担保執行法案」について質問をしました。
バブル経済崩壊後、不良債権回収のために抵当権等担保を執行する状況が増えてきていますが、他方で暴力団等による妨害事件が多発・巧妙化しています。そのため、現行の制度を近時の社会・経済情勢にあわせて変更することが、本法案改正の趣旨でした。法案は幾つかの論点を含んでいましたが、中村は、そのうち抵当権について質問を行いました。
また、この議論に関連し、抵当権設定の前提として必要な不動産登記法17条の「地図」がきちんと備わっていないことについても取り上げました。
全国の登記所に備え付けられている地図632.4万枚のうち、正式な「不動産登記法17条」に基づく「地図」は半分強(54%)の341.4万枚にすぎません。残りは、現地復元性のない、いいかげんな図(「公図(こうず)」というもので、明治時代初期の地租改正によって作成されたもの)なのです。
このようないいかげんな地図で抵当権の設定なんてできません。正式な「地図」を整備する責任は、法務局や不動産登記法を所管する法務省にあります。しかし、正式な「地図」の86.1%の294万枚は、国土交通省の「地籍調査」事業によって整備されたものであり、13.8%の47万枚は、農林水産省関係の土地改良図等です。つまり、法務省法務局が作製したものは、全体の0.06%、4000枚にすぎないのです。
法務局分の予算規模は年間9100万円程度であり、地籍調査の年間130億円と比べると、実に143分の1というお寒い状況です。
不良債権処理の円滑化のためにも、17条「地図」を備えることが必要です。「近代国家」として欠くことのできないものだと言えます。本来整備しておくべきだったことを今からでもきちんと整備することが、日本が本当の意味で近代的な民主主義国家になる大前提です。
1.不動産登記法に規定された17条地図
1)整備計画の進捗状況
2)整備の方法
3)国土調査法に基づく地籍調査との関係
a)地籍調査の方法
b)予算額の比較
4)整備計画推進に向けた森山法務大臣の所見
5)予算増額の必要性
2.不動産収益に対する抵当権の効力
1)民法第371条「果実に対する効力」の改正趣旨
2)物上代位等による方法との差異
3)管理人選任のあり方
4)非占有担保権としての抵当権の本質
3.抵当権消滅請求
1)滌除制度見直しの趣旨
2)抵当権消滅請求権者を所有権者に限定した理由
○中村(哲)委員
民主党・無所属クラブの中村哲治です。
私は、抵当権を担当して、この担保・執行法の質疑に当たらせていただきます。
抵当権の具体的な中身に入ります前に、私が今回まず皆さんに訴えをさせていただきたいのは、不動産登記法の十七条の地図についてでございます。
小泉政権は、不良債権の処理を加速させる、そういう方針を掲げておりますけれども、この国の登記簿がどのようになっているのか、これについて余りにも世間の関心が低いのではないかと私は思っております。不良債権の処理をするためには、抵当権の実行も促進していかないといけない。そのためには、登記所にどのような地図が設けられているのか、その現況がどのようになっているのか、それを把握する必要があります。
近代国家と土地の測量というものは、法律上も非常に重要な問題であります。だからこそ、民法は百七十七条において「不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス」と対抗要件を定めております。
そして、その百七十七条「登記法」という文言を受けて、不動産登記法というものが定められている。そして、不動産登記法十七条には「登記所ニ地図及ビ建物所在図ヲ備フ」、そういうふうに定めております。だから、法務省がしないといけないんです。
さて、この不動産登記法の十七条の地図でありますけれども、整備状況はどのようになっていますか。
○房村政府参考人
御指摘のように、不動産登記法十七条では、登記所に地図を備えるとなっております。この不動産登記法十七条で言っております地図というのは、近代的な測量技術に基づきまして、いわゆる現地復元性、測量地点の座標を測定いたしまして、それに基づいて現地で復元できる、こういう性能を持った地図をこの十七条の地図だということで実務で取り扱っております。そういうことから、そのような正確な要請を満たす地図のことを十七条地図、こう言っております。
この十七条地図の整備状況でございますが、現在、登記所には、今申し上げた正確な十七条地図が三百四十一万枚ございます。実は、その十七条地図の性格を今御説明いたしましたのは、登記所には十七条地図以外の地図がやはり大量に備えつけられております。これは昔からいわゆる公図と言っているものでございまして、機能としては、やはりその土地の所在を特定するための図面でございますが、これは精度は相当ばらつきがありまして、相当正確なものもあれば、明治時代につくられた、精度的には相当劣るものもございます。こういったものを現在、地図に準ずる図面と呼びまして、十七条地図がない箇所について備えつけておりますが、これが約二百九十一万枚でございます。
合計いたしますと、登記所に備えつけられておりますいわゆる地図もしくはそれに準ずる図面として、合計六百三十二万枚ありまして、そのうちの五四%が正確な十七条地図、四六%がその地図に準ずる図面、こういう状況でございます。
○中村(哲)委員
今説明していただいたことが、私が先ほど配らせていただきました法務省からいただいた資料に載っております。
そこで確認なんですけれども、その整備の方法としてはどのような方法があるんでしょうか。
○房村政府参考人
正確な十七条地図を整備する場合には、現地に行きまして、境界を確認して、そこの地点を正確な測量技術によって測量するということが必要でございます。これを現在行っておりますのは、法務局もみずから行っておりますが、最も大規模に行っておりますのは国土調査法に基づく地籍調査でございます。これによりまして、そういう境界を確認した上で地図をつくっていただいて、その地籍図を登記所に送っていただいて登記所に備えつける、こういう形で十七条地図の整備が進んでおります。
○中村(哲)委員
委員の皆さんにはこの資料を見ていただいたらいいんですけれども、国土交通省がやっている国土調査の地籍図が二百九十四万枚ということで、十七条地図の八六・一%を占めているんです。そして、農水省が中心となって行っている土地改良図等が四十七万枚で一三・八%なんです。つまり、法務局が作成している四千枚というのは十七条地図の〇・〇六%にすぎないということなんです。
本来、十七条地図を備える責務というのは法務省が負っていながら、〇・〇六%しか法務局はつくれていない。ここに非常に大きな問題があるんです。
そこで、国土交通省に伺います。
先ほど民事局長がおっしゃった国土交通省がやっている地籍調査、これはどのように行っているんでしょうか。
○倉林政府参考人
お答えを申し上げます。
地籍調査でございますが、これは、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、地籍の明確化を図ることを目的といたしまして、国土調査法及び国土調査促進特別措置法に基づき実施しております。
調査の方法でございますが、一筆ごとの土地につきまして、その所有者、地番及び地目を調査いたします。そして、土地の境界それから地積、面積でございます、こういったものにつきまして一筆ごとに測量を行いまして、その結果を地図及び簿冊に作成いたしまして、主にこれを市町村が実施主体として行っております。そして、費用負担につきましては、国が二分の一、都道府県が四分の一、市町村が四分の一ということでございます。
この地籍調査でございますが、これは土地取引の円滑化や都市計画等の策定、災害復旧の迅速化等に役立つものでございます。また、公共事業の施行に当たりましても、地籍調査を行っている地区と行っていない地区におきましては、やはり用地取得につきましてもかなりコストあるいはスピードが違ってくるというふうに思っております。そういう意味では、今後とも地籍調査のより一層の推進に努めてまいりたいと考えております。
○中村(哲)委員
地籍調査をしっかりやっていきたいと国が幾ら思っても、実施主体が実は市町村なんです。市町村がこれをやりたいと思わなければなかなか進まないんです。
現実的に、進捗率の詳細という資料がありますけれども、その中で大阪府なんか二%ですよ、進捗率。都市部は軒並み低いんです。なぜかと申しますと、都市部では新たな開発を進める必要がないからなんですね。地籍調査をしてメリットがあるというのは、自分たちの土地を開発するために、そういう整備をしておいた方が外側から開発の資本も入ってくれるだろう、そういったところで、どちらかというと、都市ではないところの方が地籍調査ということはしやすい、また、やりたいというインセンティブが働くわけです。
だからこそ、国土交通省が幾ら頑張っても、また、閣議決定で十カ年計画をやって、努力はされている、そしてそれは進めていただきたい、しかし限界があるんです。だからこそ、法務省が、本来の自分たちの仕事と認識して予算をとってしっかりしないといけない、これが私の主張であります。
参考に、国土交通省にお聞きいたします。地籍調査の予算はどのようになっているでしょうか。
○倉林政府参考人
国の予算でございますが、今お答え申し上げましたように、地籍調査の実施におきましては、国はその費用の二分の一を負担しております。国の負担分につきましては、平成十五年度におきまして約百三十億円を負担しております。事業費としてはその倍ということになります。
ちなみに、先生今、都市部のお話をされましたが、昭和二十六年以来五十三年間やっておりますけれども、御指摘のように都市部におきましてはまだわずか一八%ということで、都市部は特に人手も金もかかります。なかなか、土地が動くときでないとこの必要性というものが個々人に感じられないということもございまして、今は市町村長さんのお考え方によっているところでございますけれども、ぜひ、こうした都市部におきましても進めていきたいというふうに考えております。
○中村(哲)委員
今御答弁あったように、地籍調査の予算は百三十億円、事業費でいうと、その倍ですから二百六十億円なんです。
常識的に考えれば、この十七条地図を備える義務は法務省にあるわけですから、同じぐらいは予算がついているんだろうなと常識的には思うはずです。だから事業規模で二百六十億円ぐらいの予算がついていてもおかしくないな、そういうふうに私は思うんですけれども、民事局長、法務局としての予算は幾らついていますか。
○房村政府参考人
大変お答えしにくいんですが、平成十五年度予算におきまして、法十七条地図作成作業経費として九千百万円が計上されております。
○中村(哲)委員
これは耳を疑う数字ではありませんか、委員の皆さん。
実は私、十年間の予算をあらかじめとらせていただいたんですよ。ことしで百四十三分の一。この十年間見ても、ひどいときは二百八十一分の一しか予算をとっていないんですよ。
本当に日本という国は近代国家なんですか。近代国家というのは、財産を国がきちんと保障する、それが憲法二十九条の財産権の保障なわけです。先ほども私は冒頭に申しましたように、民法百七十七条で登記法を定めてそこを対抗要件としているのも、近代国家としての一番の義務がそこにあるからですよ。それなくして幾ら銀行の問題、不良債権の問題と言っても始まらないんです。そのことをきょうは大臣に本当に訴えたかったんですよ。
どう考えてもこれはおかしい状況だと思うんですね。小泉政権が不良債権の処理を第一に考えるのであれば、なおのことこの十七条地図というのは整備しないといけないのじゃないか、私はそのように考えるんですけれども、大臣、いかがお考えでしょうか。
○森山国務大臣
おっしゃるとおり、法十七条地図は不動産取引を公示する不動産登記制度において基本をなすものでございまして、その整備の重要性につきましては法務省として十分認識しております。これまでも、その整備の必要性の高い地域から優先して着実にその整備を進めてきたところではございます。
今後とも、このような法十七条地図整備の重要性にかんがみまして、国土調査に基づいて地籍図の作成を推進していただくとともに、法務省といたしましても、関係各方面と連携協力しながら、さらに整備を進めることができるように努力してまいりたいと思いますので、どうぞ御支援をくださいますようお願いいたします。
○中村(哲)委員
精神的な支援なら幾らでもしますよ。でも、九千百万円が国土交通省の百三十億円に、予算規模だけでですよ、事業規模でいったらこの倍ですけれども、百三十億円にたどり着こうと思ったら、年間一〇%ずつ予算を上げても何年かかるんですか。国土交通省の予算自体も、地籍調査というのはしないといけないということですから、これは必要なんでしょう。それから、市町村のイニシアチブでやっているんですから、これはしないといけない。だけれども、それだったら都市部の方は進まないんですよ。だからこそ法務省がやらないといけないんです。
今までは、この国というのは、どちらかというと右肩上がりで来ましたし、開発を中心に考えていれば物事は済んだ。しかし、そうではなくて、事前規制型ではなくて事後救済型にするんだ、そういうことで司法制度改革もこのように進んできた。そういうことを考えると、二十一世紀は法務省がしっかりしてもらわないと困るんですよ。
優先順位をつけて予算を請求するというのもあるんですけれども、本来近代国家としてやらないといけないことができていないんです。そこを認識して、閣議でもきちんとかけて、やはり来年からは十億、二十億にしてください、まずそこから始めさせてくださいと。そして、やはりあるべき姿としては、国土交通省がやっている地籍調査の事業費規模二百六十億円程度まで将来的には伸ばさせてくださいというふうに言うべきだと考えるんですけれども、大臣、決意のほどをお聞かせください。
○森山国務大臣
大変力強い御支援をいただきまして、まことに心強く存じます。できるだけ御趣旨に沿って目的が果たせますように、頑張りたいと思います。
○中村(哲)委員
頑張っていただけるということですので、ぜひ頑張ってください。
それでは、具体的な法案の中身に入らせていただきます。
まず、不動産収益に対する抵当権の効力であります。
法案では、第三百七十一条、「抵当権ハ其担保スル債権ニ付キ不履行アリタルトキハ其後ニ生ジタル抵当不動産ノ果実ニ及ブ」ということを改正案は定めております。
抵当権の行使という意味では、判例上確立している物上代位による賃料差し押さえという手段が既にあります。改めてこの三百七十一条の規定で改正をした理由は、どのような理由なんでしょうか。また、物上代位による賃料差し押さえという手法と、今回設けた、果実にそのまま賃料を含めるという、正面から求めたという手法の違いはどこにあるんでしょうか。
○房村政府参考人
御指摘のように、現在の民法三百七十一条は、抵当権の効力が抵当不動産の付加一体物にも及ぶという、その前の三百七十条を受けまして、抵当権の効力がその抵当不動産の差し押さえ後の天然果実に及ぶということを明らかにしている条文でございます。
それを、御指摘のように、今回、天然果実のみならず法定果実にも及ぶということを明らかにするような条文にいたしているわけでございますが、これは実は、抵当権の効力が法定果実、いわゆる賃料が典型でございますが、そういったものに及ぶかどうかということにつきましては、抵当権の性質に絡んで説の対立がございました。抵当権が非占有担保性を持っているということから、抵当物件の使用収益の対価である賃料に対して抵当権を行使することは許されないという説も相当有力に主張されていたわけでございます。それが、ただいま委員からも御指摘のありました物上代位を最高裁の判決で認めるというものが出されまして、抵当権の効力が法定果実にも及ぶということが判例上明らかにされました。
そういうことから、法改正をするに当たりましては、天然果実のみならず法定果実にも抵当権が及ぶということを条文上も明確にする方がよいだろうということから、今回、その双方を含む形での条文に変えたわけでございます。
それと、現在でも、物上代位で賃料へ抵当権の効力を及ぼすことが可能なのに、今回、さらに収益型のものを設けた理由ということでございますが、個別に物上代位をするということはもちろん可能でございますが、例えば賃借人が非常に多数いる物件、こういったものについて、そのすべてについて物上代位をしていくということになると非常に手間がかかるわけでございます。しかし、そういう優良な賃貸物件であれば、その物件から上がる賃料収入で抵当権者が優先弁済を受ければ、無理にその物件を競売しなくてもいい。それは、抵当権者にとってもメリットがありますし、物件所有者にとってもメリットがある。
一方、債務名義に基づく強制執行の方では強制管理という、賃料収入から弁済を受ける方法が既に設けられておりますので、抵当権についても同種の収益型の手続を設けることが双方にとって利益があるだろう、こういうことから、新しく今回、収益型の手続を設けさせていただいたわけでございます。
○中村(哲)委員
そうすると、担保不動産を引き続き管理していくノウハウを持った人、そういう者を裁判所が適切に選任する必要があると思うんです。そういったノウハウは裁判所にあるというふうに考えて法案をつくったのかどうか。そこの確認をさせてください。
○房村政府参考人
担保不動産収益執行の場合には、管理人を選任してまさにその不動産の管理をしていただくわけですので、適任の人を選ぶ必要がありますが、現在も、強制執行として強制管理があって、そこで同じように管理人を選任しております。
その実績から見ますと、やはり、執行官あるいは弁護士の方を裁判所の方で選任しているようでございますが、そういうノウハウの蓄積もありますので、担保不動産収益執行の手続が新たに設けられた場合も、そのノウハウを活用して、また、さらにその利用の頻度も上がると思いますので、新たに不動産管理会社を加えるというようなことも考えられますし、そこは適切に対応していただけるだろうと思っております。
○中村(哲)委員
従来の強制管理の手続でも年間二、三十件しかないということを事前に聞いておりまして、だから、今までは弁護士とか執行官で対応できたんだろうと。これがどれぐらい使われるかわかりませんけれども、今後、その使用状況を見ながら、立法事実が本当にあったのかどうかの検証もしていくという、そういう御答弁と理解します。
さて、今回、この改正が成ったために、抵当権の性質が少し変わるんじゃないか、変わったというふうに考えざるを得ないんじゃないかというふうにも考えられると思うんです。つまり、今まで、抵当権というのは非占有担保性があった、つまり、設定者には占有を残すことによって、そこからの収益に関してはその占有者にとどめておこう、しかし、換価価値によって被担保債権の満足を得ていこう、そういう考え方が基本にあったと思うんですけれども、今回の改正によってその考え方が変わったのかどうか。政府はどのようにお考えでしょうか。
○房村政府参考人
御指摘のように、抵当権の性質に関しまして、抵当権はその物の交換価値を把握する、それが本質だ、使用収益は抵当権を設定した債務者に留保されるんだ、こういう考え方があったことは事実でございます。
ただ、その点については、抵当権が交換価値を把握することを本質としつつも、当然、その収益にも抵当権の効力が及ぶという考え方も同時に有力に主張されていたわけでございます。その争いに、最終的に最高裁判所が平成元年に決着をつけまして、抵当権の効力がそういう賃料債権等にも及ぶ、物上代位でそれを差し押さえて弁済を受けることが可能である、こういう判断を示しましたので、抵当権の本質についてはその段階で決着がついたということでございます。
今回の法改正は、そういう、従来から判例によって確認されました抵当権の性質を前提として新しい制度をつくったものでございますので、これによって抵当権の本質が変わったということはないと理解しております。
○中村(哲)委員
抵当権の性質が変わったわけではないという話であったので、そこは確認させていただきたいと思います。
私は、三百七十二条の、物上代位の勉強を大学でさせていただいたときは、やはりこれは、なし崩し的な実現なんじゃないかという説が一番適切なんじゃないかと実感しておりました。抵当不動産、これは、土地は滅失しませんけれども、建物は徐々に朽ちていく。三十年ぐらいで使えなくなっていく。その使えなくなっていく価値もいわば賃料に含まれているわけですから、抵当権の実行、換価性の中にその賃料の一部分は含まれるんじゃないか、私はそのように学生時代考えておったところでございます。
そういったことを考えても、抵当権の性質は変わっていないという政府の答弁も、私もそのとおりだなというふうに考えております。
では、次に参ります。
この法案では、第三百七十八条で滌除制度の見直しがされております。抵当権消滅請求ということが新たにできるようになっておりました。この滌除制度を見直す理由はどういうところにあるんでしょうか。濫用の事例がたくさんあるということですが、その具体例も含めて御説明ください。
○房村政府参考人
現行民法では、三百七十八条で、御指摘のように滌除という制度を設けております。これは、抵当権の設定された不動産を取得した者が、抵当権者に対して一定の額を示して、この額で抵当権の消滅を求めるわけでございます。抵当権者がそれを承諾いたしますと、第三取得者は、そのお金を払って抵当権を消滅させて、抵当権の負担のない物件を手に入れることができる。
一方、抵当権者の方としては、その額が不満がある場合には、当然承諾できません。その場合には、抵当権者としては、現行制度では、申し出の額より一割高い額で競落する、こういう前提で競売の申し立てをしないといけない、それをしなければ承諾したものとみなされてしまう、こういう仕組みになっております。さらに、その前提として、抵当権者は、抵当権を実行する場合にはそういう滌除権を持っている者に対してあらかじめ通知をしなければいけない、しかも通知をして一カ月たたないと競売できない、こういう負担があります。
そういうことから、抵当権を実行しようと思うと、そういう負担があってすぐにできない。また、そういう通知をいたしますと、実行までの一カ月間にいろいろな妨害工作をされるおそれがある。向こうから滌除の申し出がありますと、それに対してみずから競落義務を負ったそういう競売申し立てをするかどうか、こういう負担がある。このようなことから、抵当権者にとって非常に負担になっている。また、そういう負担があるがために相当低い額での滌除の申し出にも応ぜざるを得ない、こういうような指摘がされております。
そういうことから、今回、そういう不都合をなくすために思い切って見直しを行って、かつ名称についても、滌除というのはいかにもわかりにくいものですから、抵当権消滅請求というわかりやすい名称にしたということでございます。
○中村(哲)委員
技術的な話になるんですけれども、所有権者に限ったのはどういう理由なんでしょうか。現行法では、地上権者や永小作権者にも滌除ができる規定になっておりますけれども、今回の法案ではそれが除外されておりますが、その理由はいかがでしょうか。
○房村政府参考人
まず第一に、ほとんど利用されていないということがあります。それからもう一つは、仮に残しますと、所有者の知らない間に、地上権または永小作権を取得した者が滌除の申し立てをして抵当権者が競売の申し立てをすると、本来所有者が債務をきちんと払っているのに競売されてしまう、こういう事態が起こるということもございます。
それから、今回、抵当権消滅制度として存置をした、合理化したということの中には、被担保債権が物件の価額を超過している、そういう物件についてなかなか流動化しにくい。それを、合理化した抵当権消滅制度に基づいて、抵当権の負担をなくして流動化したい、こういうねらいもあるわけですが、これは永小作権とかあるいは地上権者が滌除しても達せられませんので、そのようなことを総合考量いたしまして、今回は所有権者に限ったわけでございます。
○中村(哲)委員
時間が参りましたので、あと積み残した質問、また滌除権者への配慮という問題についても聞きたかったんですが、これで質問を終わります。
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