2003年5月13日 第156回国会 衆議院 法務委員会 |
案件:刑法の一部を改正する法律案 |
[1] 質疑内容(58分) 「刑法一部改正案、難民問題について」
5月13日の法務委員会では、「刑法の一部を改正する法律案」及び難民問題について質問を行いました。
○「刑法の一部を改正する法律案」について
我が国刑法は、国内で起きた犯罪は我が国刑法を適用することとしています(「属地主義」と言われています)。この考え方は多くの国でも採用されています。また、日本人が外国において殺人や誘拐など重大な犯罪を犯した場合についても、我が国刑法を適用できることとしています(この考え方は「積極的属人主義」といわれています)。
今回の刑法の改正は、これらに加え、TAJIMA号事件(公海上(つまり国外)の船で日本人が殺された事件。その後船は日本に寄港したが、この犯罪には日本の刑法が適用できないため日本の警察は容疑者を確保することができず、一ヶ月近く船員らが容疑者を見張るという異常事態が発生した)を契機に、幾つかの重大犯罪の被害者が日本人の場合、我が国の刑法を適用できるようにするものです。
この法案を整備すれば、今後、例えば欧州で発生したような北朝鮮による日本人誘拐事件のようなものにも、我が国が積極的に関与することができるようになるとのことでした。
○難民問題について
難民問題については、特に難民審査を行う調査官の質の問題について法務大臣に質問しました。
難民問題を扱っている弁護士の皆様からお話しを伺っていると、我が国の難民調査官の質はかなり悪いということをお聞きします。実際に弁護士の方がその具体例を集められたところ、驚くような事例が集まりましたので、今回はそれを委員会の場でご紹介しました。
例えばアフガニスタンのカルザイ大統領(当時は議長)の名前も知らず、「カイサル議長?カエサル議長」と間違える調査官や、タリバンのことを知らなかった調査官、専門的な研修は一度も受けていないという調査官や、一日だけヘルプのために難民調査官をやっているような事例などなど・・・
かつて大臣は、難民調査官は難民問題の専門家であって、特別の研修を受けていて、現地の情報にも詳しいと答弁をされていましたが、それはなんだったのでしょうか。こうした現状について大臣の見解を伺ったところ、大臣は早急に実態を確認すると答弁されました。
現在、政府は出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を提出しています。民主党はこの政府案は不十分だと思っていますが、それ以前の問題として、いくら法律を改正しても、その法律に基づき実際に難民審査を行う調査官の質が不十分であれば意味がありません。そうした観点から、この難民調査官の質の向上についてももっと注意を払う必要があると思っています。
1.刑法第一条における属地主義の考え方
2.消極的属人主義を採用している諸外国の例
3.日本国民の定義
4.TAJIMA号事件
1)船籍
2)所有者と運航管理者の資本関係
5.国外犯に対する捜査権
1)優先する国
2)具体的手続
3)双罰規定の有無と犯罪人引き渡し
6.国外犯に対する判決の二重執行
7.六類型の犯罪を選定した理由
8.死刑廃止国との関係
1)死刑の存置を理由とした犯罪人引き渡し拒否の可能性
2)死刑廃止国に対する説明方法
9.改正後における海外拉致事件に対する対応の変化
10.便宜置籍船
1)課税に対する国土交通省の考え方
2)日本船籍の船舶に日本人乗組員を必要とする理由
3)上理由と便宜置籍船との矛盾
11.難民調査官
1)我が国の難民認定が厳し過ぎるとの批判
2)UNHCRの難民性判断と我が国の難民認定の差異
3)難民調査官の給源
4)難民調査官の専門性を高める方策
5)現状に対する森山法務大臣の認識の有無
○中村(哲)委員
民主党・無所属クラブの中村哲治でございます。
本日、刑法の一部を改正する法律案について質問をさせていただきまして、もし時間が少し余りましたら難民調査官の資質について順次質問をさせていただきたいと考えております。
さて、この刑法の一部を改正する法律案ですが、この法律案というもののポイントは、今まで我が国の刑法が適用されてこなかった事例、つまり日本人が海外で被害者となったときに、殺人等の重大な犯罪については日本の刑法を適用しようという点が今回の法案の改正のポイントであります。
最初に、考え方の整理をするために、刑法についての基本的な部分を確認いたします。
刑法一条一項の定めるとおり、我が国日本の刑法では、日本で発生した犯罪に対しては日本の刑法を適用するという、いわゆる属地主義を採用しています。これは、世界的にもほとんどの国が採用しており、それは領土主権に基づく考え方だと理解してよろしいでしょうか。
○増田副大臣
中村委員さんの御質疑にお答えを申し上げます。
まず、御指摘のとおりであります。属地主義は、国家主権の及ぶ領域内で犯された犯罪につきましては、その国は主権に基づきまして刑罰権を行使し、それによって法秩序の維持を図るという考えに基づいております。また、一般的に、犯罪地国では証拠の収集が容易であるという利点があることなどから、属地主義は多くの国で基本原則として採用されているものと承知をいたしております。
○中村(哲)委員
ありがとうございます。
さらに、我が国の刑法では、刑法三条において、日本人が海外において幾つかの比較的重い犯罪を犯した場合についても日本の刑法を適用すると規定しております。これは積極的属人主義と呼ばれるものです。
今回の改正案というものは、比較的重い犯罪の被害者に日本人がなった場合に、その犯罪者に対して我が国の刑法を適用できるといういわゆる消極的属人主義を採用することを提案しているわけですけれども、このような消極的属人主義を刑法に盛り込んでいる国というものはどういう国があるのでしょうか。
○増田副大臣
主要諸外国のうち、ドイツ、フランス、イタリア、韓国などは、国外において自国民が一定の犯罪の被害者となった場合に、自国の刑罰法規を適用する旨の規定を有しているもの、このように承知いたしております。
○中村(哲)委員
非常に多くの国ではないかもしれないけれども、かなりの部分の国においてそのような例があるということで、国際的に見てもこういった法律はおかしな法律ではない、そういう御趣旨だと考えさせていただきます。
さて、ここで出てきております、現行法の三条にも出てきておりますけれども、「日本国民」という言葉が出てきます。この「日本国民」という言葉の定義を確認させていただきたいと思います。
○増田副大臣
刑法第三条の二に言う「日本国民」とは、国民の国外犯を規定する刑法第三条に言う「日本国民」と同じく、日本国籍を有する者を言いまして、日本国籍を有するか否かは国籍法の規定によって決められております。
以上であります。
○中村(哲)委員
さて、具体的に本法案の内容について議論を、確認をさせていただきたいと思います。
この法案が提出されたきっかけとなったのはどういう事件があったからなのか、そのあたりについて背景を説明していただければと考えております。
○増田副大臣
いわゆるTAJIMA号事件という事件がございました。平成十四年四月、台湾沖の公海上で、日本の海運会社が運航するパナマ船籍のタンカーに乗船していた日本人航海士がフィリピン人乗組員二名に殺害された事件であります。
この事件は、我が国の刑法の適用範囲外であったため、我が国は、裁判所轄権を有するパナマ共和国政府からの捜査共助要請を受けまして、捜査共助を行い、さらに事件から三十七日後になって、同国からの仮拘禁請求を受けて、翌日、当該フィリピン人乗組員の身柄を拘束しました。その後、同国政府からは犯罪人引き渡し請求を受けまして、同年九月六日、同国政府に両名を引き渡しております。これが経過でございます。
○中村(哲)委員 今御答弁の中に、TAJIMA号という船の所有者についてお聞きしたかったんですが、その中で、御答弁の中では日本の海運会社とお答えになっておりましたけれども、日本国の法人であるというふうに理解してよろしいですか。国土交通省に。
○徳留政府参考人
お答え申し上げます。
TAJIMA号の船舶所有者は、ウェルマウス・プロプリエタリィというパナマの会社でございますが、運航の管理は、当時、共栄タンカーという日本の船会社が行っておりました。船の国籍といいますか、船籍と言っておりますが、これは、したがいましてパナマ共和国でございます。
以上でございます。
○中村(哲)委員
国土交通省にもう少し詳しく聞かせていただきたいんですけれども、つまり、この船の運航管理者は日本の会社であった、しかし所有していたのはパナマの会社であり、船籍もパナマであった。そこで少し疑問になってくるのは、その日本の運航会社、運航管理会社とそのパナマの所有者の、パナマで持っている船会社、その資本関係はどのようになっていたでしょうか。
○徳留政府参考人
便宜置籍船のことでちょっと御説明申し上げたいと思います。
いわゆる便宜置籍船という船があるわけでございますが、これは必ずしも厳密に定義されているわけではございませんが、一般的に、船舶の登録をするについて、簡便な要件等を許容する国に登録されている船舶がそのように言われているわけでございまして、こういった国として、例えばパナマだとかリベリアとかバハマ、キプロス、こういった国がありまして、海運の場合には、こういう国に籍を置いて、そしてそれを用船して運航する、こういう実態が広く行われているところでございます。
我が国の外航海運企業、御承知のとおり、外航海運サービスという非常にグローバルな市場において、諸外国の海運企業と非常に厳しい国際競争を展開しておるわけでございまして、そのために、その競争に打ちかっていくために、例えば、人件費の安い途上国の船員を雇い入れることができるようなそういう制度を持っている国、あるいはまた、税制面でも比較的有利な税制を持っている、そういった国に籍を置きまして、その船を日本の海運会社が用船をして運航する、こういうことで可能な限りコスト低減に努力をしている、こういうことでございまして、これは何も日本の海運会社だけではなくて、世界各国の海運界で今そういうふうな、広く見られる現象でございます。
○中村(哲)委員
私がお聞きしたかったのは、その説明もお聞きしたかったのでありますけれども、資本関係がどのようになっているかということをお聞きしたかったわけでございます。もう一度御確認をよろしくお願いいたします。
○徳留政府参考人
お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたパナマのウェルマウス・プロプリエタリィという会社は、日本郵船が一〇〇%出資してつくった会社でございまして、そこが船をオーニングしまして、それを用船しているということでございます。
○中村(哲)委員
増田副大臣、つまり、この便宜置籍船の問題というものは、確かに船を持っている会社はパナマの会社かもしれない、しかし、そこの船を持っている会社の株式は日本の運送会社が持っていて、そしてそこが運航管理をしている、そういったところに問題の背景があるというふうに理解してよろしいんですね。もうこれは確認なんですけれども。
○増田副大臣
お答えを申し上げます前に、前の発言で私が、発言が違ったところが一カ所ありまして、謹んで訂正をさせていただきます。
それは、我が国は裁判所轄権と申し上げましたが、我が国は裁判管轄権を有するということでして、訂正をさせていただきます。
それから、確認の話はそのとおりでございます。
○中村(哲)委員
便宜置籍船の話は後で時間があれば少しさせていただきたいんですけれども、次に進みます。
本法案が施行されれば、海外で犯罪が起こった場合に、論理的には、同一犯罪者に対し複数の国の刑法が適用されることになります。そのとき、実際の捜査はどのようになるんでしょうか。例えばアメリカで日本人が殺されたような場合、そういったことを念頭に置いていただいていればいいかと思うのですが、そういった場合にどこが捜査するのか、どの国が捜査するのかについて、優先順位等の国際的な定めが、約束があるのでしょうか。
○増田副大臣
お答えを申し上げていきますが、本改正によりまして、国外における外国人による犯罪に我が国の刑法が適用されることとなっても、直ちに我が国が捜査、処罰を行うことになるわけではありません。
この点につきましては、必ずしも国際的な約束等があるわけではありませんが、一般的には、犯罪地国に犯人と証拠が存することから、当該犯罪地国にまずその捜査、処罰をゆだねるのが適当な場合が多いであろう、このように考えられます。
しかし、犯人が我が国で発見されたり、関係者等が我が国に存するなど、我が国が捜査、処罰をすることが適切かつ合理的である場合もあり得ますから、このような場合には、我が国が犯人を逮捕し、あるいは犯罪人引き渡し請求等を行って捜査を進め、当該犯人を処罰することになると思われます。
以上です。
○中村(哲)委員
今増田副大臣がおっしゃったような基準で、どちらの国で捜査がなされるのかということが決まるんだと思います。
さてそこで、増田副大臣にその点についてさらに聞きたいんですけれども、その答弁をお聞きして、それでは、その基準に当てはまっているということはどこが判断するのか。例えば、日本の捜査機関である警察庁がどのような形で、アメリカで起こった日本人が被害者となっている犯罪に対して、私たちが捜査させてほしい、そういったことを言いに行くのか、逆なケースもありますけれども、そういう具体的な手続の問題についてお聞きしたいと思います。今増田副大臣がおっしゃったその基準に適応するための手続面についての御説明をお願いしたいと思います。
○増田副大臣
どういう事案が発生するかわかりませんけれども、発生した事案、発生した場所等、こういうようなことを考えまして、外交ルートを通じ、協議をしながら解決に当たっていく、こういうふうに運ばれると理解しています。
○中村(哲)委員
つまり、日本の捜査機関である警察庁なり、検察庁もあるのかもしれませんけれども、日本の捜査機関が外務省を通じて当該地の外務省と交渉に当たる、そういったイメージでよろしいんでしょうか。今、外交ルートでとおっしゃいましたので、具体的にはそういうことでよろしいでしょうか。
○増田副大臣
スタートの基本はそうなると思います。その後、進展の段階で直接、省がかわることも当然考えられますが、そういう理解に立っております。
○中村(哲)委員
それでは、次の質問に移ります。
政府の提案するこれらの重い犯罪が、万一、当該発生国では犯罪として規定されていなかった場合はどうなるんでしょうか。
○増田副大臣
本法案におきまして、仮に今、対象犯罪が犯罪地国で犯罪として規定されていなかった場合、このように御質問がありましたが、いなかったとしても、我が国の刑法が適用される、このようになってまいります。
これらの対象犯罪は、いずれも生命、身体に侵害を生じさせ、あるいは生じさせ得るような犯罪ですので、他国においても一般的に犯罪とされているものと言えますし、国民保護の見地からも、犯罪地国における犯罪の成否に拘束されるべきものではないと考えております。
○中村(哲)委員
増田副大臣、そうしますと、これは万一の話なんですけれども、向こうに今回定められているような重大な犯罪についての規定が刑法になかった場合、そこの国の捜査官としては、これは仮の話ですけれども、こんな重大な犯罪が本当に定められている国がないのかといったら、ほとんどないとは思うんですけれども、仮にそういったことを仮定した場合の話です。その国では、その犯罪行為については罪にならない、刑法に触れないというふうに考えられているわけですよね。
そうすると、万が一、日本がそういうふうなことを言っても、うちのところではそれは犯罪になっていないから犯人の引き渡しも拒みますよというようなことが言われる可能性があると思うんです。
そのあたりのところはどのようにお考えになっているのか。やはり、重要な犯罪しか決めていないので、頼みますよというふうに外国に言っていくのか。今後の捜査のあり方とも関係してくると思うんですけれども、仮にそういった、仮定ですよ、こういったことはほとんどないと思いますけれども、そういった場合があったときに、日本はやはりその国に対して外交ルートを通じて犯人の引き渡し等を求めていくのかどうか。
そのあたり、この法案が通った後の捜査姿勢ともかかわってくるとは思うんですけれども、どのような形で運用されるおつもりなんで
しょうか。
○増田副大臣
中村委員さんがいろいろの事態を想定して御質問いただいているのは、よくわかります。
そして、一番最後におっしゃったそういうような場合にも、もちろんあらゆる外交手段を通じて、そのことを相手国に話しながら、日本の法律によって、今度、次のこの刑法によって罰するという前提に立って取り組みが行われるというのが筋でありまして、そういう歩みになると思います。
私も、今御質疑を聞きながら、世界にそういう国があっちゃ困るなと一瞬考えたんですが、私たちの国で凶悪犯罪の対象だというようなことは、他の国でもそうではないのかな、このように実は思っていますが、足らざるところはちょっと勉強してみたいと思いますが、お答えはとりあえず以上になります。
○中村(哲)委員
答弁を伺ってみて、恐らくこういうことなんじゃないかなと思うんですけれども、だから、もし犯罪地国で犯罪になっていないケースであったとしても、今回の法律が通れば私たちの刑法によって犯罪者の引き渡しを求めるわけですから、逆に国際的に見てもそのことが通用できるような重大な犯罪、身体とか生命とかそういったものにかかわる犯罪にのみ今回は絞って規定をした、そういった立法趣旨も裏にあるというふうに解釈してよろしいんでしょうか。
○増田副大臣
大きくは六つに分けて規定をいたしましたが、先生の御発言の趣旨がないというふうには私は考えておりません。したがって、恐らく世界の国に通用し、また何か事があったときには世界世論の中ででも進むだろう、こういう理解を実はとっております。どうぞ御理解賜りたいと思います。
○中村(哲)委員
ありがとうございます。それでは、次の質問に移ります。
今回の法案が通ったときには、こういうケースもあり得ます。最終的に他国で裁判を受け、そしてその他国の刑に服した者に対して、さらに我が国の刑法を適用し、裁判をすることはあり得るのか。
それはもう刑法に五条で書かれておりますので、これはあるということだと思います。そのとき、五条ただし書きのところにはこのように書かれております。「ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。」と規定されております。ということは、他国の刑に服した者に対して、刑は二重に執行されるというふうに理解してよろしいんでしょうか。
○増田副大臣
お答えしていきますが、二重ということにこだわらず、まずお聞きをいただきたいと思います。
犯罪地国におきまして確定裁判を受けた場合であっても、我が国において同一の行為についてさらに裁判を行って処罰することはであります。ただし、同一行為につき犯罪地国で刑の執行を受けたときは、御発言がございました、我が国における刑の執行が必要的に減軽または免除されます。これは御発言のただし書きであります。
外国において確定裁判を受けた者について、我が国においてどのような場合にさらに処罰を求めて起訴するかにつきましては、検察において事案の内容、被害者等の処罰感情、当該外国での処罰の内容等を考慮して、個別の事案ごとに判断することになる、このように承知をいたしております。
○中村(哲)委員
つまり、ケース・バイ・ケースで考えていくしかないということであるのだろうと思います。
例えば、もう犯罪地国で裁判まで受けて、懲役何年ということを経験して、そして帰ってきたときに、時効は中断といいますか、時効はとまっておりますから、そこで十分刑事責任は問えるんでしょうけれども、余りにも長い時間であったり、もう十分民事的な賠償とかも済んでいる場合などに関しては、被害者の応報感情、感情も安らいでいく、そういういろいろな要件とか状況を勘案しながら個別に対応していくという理解でよろしいわけでございますよね。
それでは、次の質問に参ります。
被害者が日本人である消極的属人主義の対象犯罪として新設された三条二項に挙げられている犯罪、これらの犯罪を選定した理由、先ほども少し趣旨を述べられておりましたけれども、改めて述べていただけますでしょうか。三条二項に挙げられている犯罪、なぜこの犯罪を選定したのか、その理由をお答えください。
○森山国務大臣
この改正の趣旨でございます国民保護という見地から、個人的な法益に対する罪に限るということにした上で、殺人及び傷害の罪を初めといたしまして、人の生命や身体に侵害を生じさせる、あるいは生じさせ得るような犯罪でありまして、保護の必要性が特に強いものを選択したわけでございます。
○中村(哲)委員
人間の尊厳というところに深くかかわっている犯罪を選んだということだと理解をさせていただきます。
それでは次に、関連してなんですけれども、本法案ではいわゆる重たい犯罪を対象としておりますけれども、我が国には死刑が存在しております。死刑制度を廃止した欧米各国は、そういったときに犯罪者の引き渡しに応じない可能性があると思うのですが、その点についていかがお考えでしょうか。
○森山国務大臣
確かに、我が国が外国に引き渡しを請求いたしましても、条約がない限り、引き渡すか否かは、相手国が国際令状に基づいて、その引き渡しに係る法制度等に基づいて判断するわけでございます。
したがいまして、我が国といたしましては、相手国を説得することに努めることは当然でございますが、相手国が引き渡しに応じないということもあり得ると思います。その場合においては、当該犯罪が起きた国などにおいて適切な処罰が行われるように、我が国として働きかけをしていくということになるかと思います。
○中村(哲)委員
質問通告ではそこまで詰めた話はしていなかったんですけれども、適切な要請といいますか、そういうものをしていくという御趣旨だったんですけれども、我が国には死刑がありますよね。それを理由にして、やはり我が国、日本に渡すのは困るというふうに犯罪地国である先進国で言われた場合に、どういった理屈で返してもらうというか、引き渡してもらうのかなということは非常に難しいのかなということを御答弁を聞きながら考えていたんですけれども、どのような形で、またどのような理由で引き渡してくださいというふうに法務省としては当事者である相手国に伝えるつもりでしょうか。
○森山国務大臣
この法律が成立いたしましたときには、この法律の考え方をよく説明いたしまして、また、日本の国ではこういう法律制度があり、処罰の体系もあるということを詳しく説明いたしまして、その日本の立場、日本の考え方をよく理解してもらう、努力を重ねるほかないと思います。
○中村(哲)委員
死刑制度については、哲学的な考え方の違いというものがあると思うんですね、死刑制度を廃止している国とそうでない国と。そうであった場合に、我が国の刑法が、死刑制度があって、殺人罪というのは死刑が適用されるので、この法案というものは、人に対して直接向けられた犯罪行為であって、生命、身体に大きな損害を与えている犯罪については日本の刑法が適用されるようになったんですよ、そういった趣旨を伝えたとしても、死刑というものの考え方が全く違う中で、その死刑制度があるからという理由で引き渡しを拒まれた場合に、果たして、引き渡してくださいと言えるのかなというのは、根本的な疑問としてあるわけですよ。そして、そこの説明は今されていなかったと思うんですね。
ここは本当にあり得るな、可能性としては高いなと思うんですけれども……(発言する者あり)スウェーデンから過去にあったという話もありますけれども、そのあたりについて、死刑制度を、今後日本でこれを存置しておくのかということとも絡んでくるんでしょうけれども、説得するのは非常に難しいと思うんですが、その点については具体的な、実質的な理由をいかに伝えていくのか、そこについて何かお知恵を持っていらっしゃらないでしょうか。
○森山国務大臣
日本の場合も、死刑というものが存在はしておりますけれども、殺人がすべて死刑ではないわけでございまして、むしろ非常に例外的な、凶悪なものに限られると言ってもいいかと思います。そういうわけで、日本でも死刑というものについては非常に慎重に検討し、最終的にだれもがああそうかと考えるようなものに限られるという実態を説明し、かつ、日本の場合は、日本国としては、今のところ、国民世論等から見ても死刑を存続せざるを得ないという事情であるということを説明するほかないと思いますが、最終的に、スウェーデンその他の国でありましたように、どうしても引き渡せないということもあり得るかもわかりません。その場合はやむを得ないかと思います。
○中村(哲)委員
相手が拒まれたら仕方ないという話なんですけれども。結局、だから、日本に死刑制度があるから、それを理由にして拒まれるということはあり得るし、説得しても、向こうがそういう死刑制度を理由にしていたら、引き渡すことというのはなかなかできないと思うんですよね、哲学的に。それは最終的にはもうやむを得ないという話を今おっしゃった。ということなので、今後この法案ができた上で、さらに、日本で本当に引き連れて邦人保護をしたいのであれば、死刑制度の存置、これからも死刑制度を続けていくのかということの議論にもこういった観点を加味していかないといけないのではないか、そのように考えました。
さて、次の質問に移ります。
この法案が成立すればこういったこともあるんじゃないかというふうに想像を膨らませました。
北朝鮮のいわゆる拉致事件が今マスコミでも取り上げられております。日本で起こった拉致事件についてはもちろん日本の刑法が適用されるんですけれども、欧州で起こったような拉致事件については、今まで日本の刑法では適用はない。罪刑法定主義で不遡及ですから、今回の法律が成立したとしても今までの欧州で起きた拉致事件には適用されることはありませんけれども、今後同様の事件が仮に起こった場合には、我が国としても積極的に対応できるようになるというふうに考えてよろしいですか。
○森山国務大臣
この法律案は、日本国外において日本国民が犯罪の被害に遭う機会がふえて、殺人等の重大な犯罪の被害に遭うことも少なくないということから、国民保護の見地から、日本国民が殺人等の生命、身体に対する一定の重大な犯罪の被害を受けた場合に我が国の刑法の適用を認めることとするという趣旨でございまして、今後、北朝鮮による拉致事件と同様の事件が発生した場合についてということでお話しでございますけれども、確かに、この法律の趣旨から申しまして、日本国民が海外で外国人による拉致被害に遭った場合には、事案に応じて我が国の刑法が適用されることとなるわけでございます。
しかし、いずれにいたしましても、刑事事件として取り上げるものがあれば、検察においても、警察等の関係機関と協議の上で、法と証拠に基づいて適切に対処するものと考えております。
○中村(哲)委員
つまり、邦人保護の選択肢がふえるということの理解でよろしいですよね。
国際化になってきて、日本人がどんどん海外へ行っていて、誘拐とかもされることもふえてきた。しかし、今までだったら何とかしてくださいと外交ルートを通じて言うだけだったけれども、この法案が通れば、我が国の刑法に抵触する行為ですから、犯人の引き渡しも含めて、私たちは私たちの国として捜査させていただきたいということで、強くその犯罪地国に訴えることができる、要請することができる、このように理解してよろしいですね。
○森山国務大臣 そのとおりでございます。
○中村(哲)委員
では、国土交通省に、便宜置籍船の問題について、少し確認のお話をさせていただきたいと思います。
いただいた資料によりますと、日本籍船とパナマ籍船の違いについて、一枚紙の表をいただいております。これは一つのケースなんだと思うんですけれども、船価が九十億円のものの場合、初年度でかかるお金が日本の場合は二千二百万円、パナマの場合は三百万円、十三年間という耐用年数で考えた場合、全体で見ても、日本の船というのは七千八百万円、パナマの場合は二千百万円、その差五千七百万円の負担が違う。
しかし、きのう国土交通省ともお話をさせていただいていて意外に思ったのは、これぐらいの違いだったら、逆に日本の方の負担をもっと下げてもいいんじゃないかなと。
お話を聞くと、日本の会社が持っている船というか、それは子会社を使って持っている船と言ってもいいんでしょうけれども、日本が管理、運航している船の中で、日本の船籍の船というのは数%というふうに聞いておりますので、もしこの便宜置籍船をなくすような、そういった法制度にしても、トータルとしての収入は、もしそれで数%が一〇〇%に近くなれば、負担は大体四分の一程度ですから、今のパーセンテージの四倍ぐらいになれば、まあ素人考えですけれども、財政的にも問題はないので、なぜその国際標準に合わすような形というか、便宜置籍船が国際標準なのかというのはまた議論があると思うんですけれども、そのあたりのところは国土交通省としてはどのようにお考えになるんでしょうか。
○徳留政府参考人
お答え申し上げます。
今先生、税金の比較の方をお話しいただいたわけですが、税金につきましては、一つの試算として、十三年間で約六千万円ぐらいの差ですよということでございますが、他方で、先ほど私、便宜置籍船の、なぜ便宜置籍船がされるかということの理由の中で一つ申し上げましたのは、船員の問題、船員コストの問題がございまして、船員コストを考えた場合には、例えば、ある試算でございますが、日本人の船長というか艦長を日本籍船の場合には最低乗せなきゃいけないということがございます。パナマ籍船であれば、それはすべて外国人でも構わないということがございます。これで、人件費ベースで考えますと、総人件費で大体五、六千万円の差が出てくるということでございまして、船は耐用年数十四、五年ありますので、その間考えますと、もっと大きな差が出てくるというようなこともございまして、現状では、そういう便宜置籍を選んでいるというのが船会社の実態ではないかと思っております。
税金につきましてもいろいろ私ども努力をしておるところでございますが、実態はそういうことであるということでございます。御理解いただきたいと思います。
○中村(哲)委員
お話を伺っていてもよくわからないのが、税金については確かにそうなんだけれども、船長の国籍とかを考えると、やはり日本人の給料は高いから差が出てくるんですという、まとめるとそういうお話なんです。
だったら、なぜ日本の船籍の船において船長が外国人でもいいように制度を変えないのか、国際競争というのであれば、そういうふうにしてもいいんじゃないかという疑問が生じてくると思うんですけれども、そこはもうステータスの問題として、日本船籍の船はやはり日本人じゃないとだめなんだ、それはもう国是なんだというお考えならば、それはそれでわかるんですけれども、そこの確認をさせていただきたいと思います。
○徳留政府参考人
お答え申し上げます。
日本人の乗組員の数につきましては、随時いろいろ見直しをしてまいってきておりますが、ただ、最終的に、やはり日本の海運といいますか、日本の物資はほとんど船で運ばれて、貿易として運ばれておるわけでございまして、日本海運だけではございませんが、しかし、大宗は日本の海運が担っておるわけでございます。
今後のそういう海運を運営していくためには、ある程度の、そういう船員の教育といいますか、そういう場というものがやはり必要であろうということで、すべて外国人でというふうには、我々としては、やはり政策としてはとっていないということでございまして、ある程度の船員を養成していく。そのために、その中で海運業を運営していくというためには、船を動かす、そういう人材の養成というものも必要であるというふうに考えておるところでございます。
○中村(哲)委員
少しわからないのは、それだったら、なぜ、日本の会社が運航管理しているような船で外国人を雇ってもいいような、そういう法制にしているのか。だから、パナマ船籍の船を日本の会社が実質上、一〇〇%子会社を使って持っているわけですよね。それが許されるということになると、おっしゃった趣旨が脱法的にされているというふうに理解してもいいのではないかと思うんですが、そのあたりの理解をどういうふうにしたらいいんですか、国民としては。
○徳留政府参考人
ちょっと説明がうまくなくて申しわけないんですが、外国に籍を置いた船については、日本のそういう船員の適用はないわけでございまして、私どもとしては、そういうことで外国へ便宜置籍することをできるだけ防ぎたいという努力をしているわけでございまして、まだ日本籍船は、先ほど先生おっしゃいました、百十杯ぐらいございますが、日本籍船はどんどん減少してきているということはあるわけでございます。そういうことで、外国の船についてはそういうメリットがあるということで、一定の船を外部便宜置籍しているということでございますが、そういうことでございます。
○中村(哲)委員
余り答えにはなっていないと思うんですけれども、この便宜置籍船の話をずっとやっていても仕方ないので、これはまたほかの委員会でやるべき話だと思います。
つまり、かなり特殊な状況で、ある事件においてこの法案が提出されるきっかけとなった、それは理解していいんだと思います。ただ、今大臣おっしゃったように、国際的にこれだけ日本人が外に出ていくようになった。そして邦人保護の要請もある。そういった中で、今回の法案が出てきたという背景というのは私は十分理解できるというふうに感想を述べさせていただきます。
さて、この法案についての私が思いつく論点はすべて聞かせていただきましたので、少し時間も余ったことですので、私が日ごろ気になっている難民調査官の資質の問題について次に質問させていただきたいと思います。
まず、前提となる質問を少しさせていただきたいと思います。
二〇〇二年に政府が難民として認定した方たちというのは十四名と聞いております。一昨年の二十六名と比較しても、かなり少ないと言えると思います。各国と比較しても、この認定数は圧倒的に少ないと思います。我が国の難民認定というのは厳し過ぎるのではないでしょうか。
例えば、データを申しますと、二〇〇二年、申請数は二百五十名、認定数は十四名、六%です。人道的配慮も四十名、一六%にすぎません。二〇〇一年でも、申請数三百五十三名中、認定数は二十六名、七%です。人道的配慮も六十七名、一九%にしかすぎません。我が国の難民認定が厳し過ぎるのではないか、これについて局長の答弁をお願いいたします。
○増田政府参考人
外国と比べて我が国は難民認定に厳しいのではないかというお尋ねでございますが、難民認定申請につきましては、従来から、国際的な取り決めである難民条約等にのっとりまして、個別に審査した上で、難民として認定すべき者は認定しており、それ以外の場合でも、人道的観点から必要と認められるときには、本邦での在留を特別に許可することとしております。
委員御指摘のとおり、平成十四年に難民認定した者の数は十四名でして、平成十三年が二十六名でございますから、減少しておりますが、これは平成十四年の難民認定申請が前年、平成十三年に比べて百名以上減少していることによるところが大きいのではないかと考えておりまして、日本の難民認定が厳し過ぎるという批判は必ずしも当を得ていないものと思います。
なお、難民認定しなかった者につきましても、ただいま委員が御指摘になりましたとおり、平成十四年に人道的配慮から四十名の在留を認めておりまして、難民として認定した者と実質的に庇護した者、その合計が五十四名で、庇護率は約二四%となります。この数字から見て、我が国が難民の受け入れに消極的態度をとっているとは考えてはおりません。
○中村(哲)委員
その御答弁に関しては少しまた議論をさせていただきたいんですけれども、その前に、国土交通省の皆さん、もう結構ですので御退席ください。
今増田局長の御答弁の中に、申請数が減ったから、百名以上減ったからというお話もありました。しかし、これ、逆に考えると、日本はもう行っても認められないぞ、だからもう日本に行って申請するのはやめようというふうに外国人が考えることだってあり得るわけですよ。日本という国は、先進国の中で地勢的に見てアジアにある数少ない国ですから、アジアの地域の人たちが難民申請したい、また、日本という国が好きだからやはり日本に行って難民申請しようという人はたくさんいたんですけれども、そういったことで減ってきているというお話もあるんですね。
ここについては、単純に数が減っているから、また、認定のパーセンテージが、人道的配慮での保護も含めると、合わせたら二五%に達しているから、それは十分だとは必ずしも言えないと思うんです。というのは、国連難民高等弁務官、UNHCRの日本・韓国地域事務所の資料によりますと、日本政府に対し難民申請を行った方々のうち、日本国政府が、UNHCRの日本・韓国地域事務所が難民性が高いと考えている方々の二六%程度しか難民として認めていないという試算が出ているんです。ここに資料があるんですけれども、百五十五名程度難民性が高いんじゃないかというふうにお考えになっているうち、日本政府は四十人しか認めていない。
つまり、こういうふうに計算すると二六%程度ということになるんですけれども、この差についてもどのようにお考えになっているのか。やはり国際的に見て厳しいと言えるのではないかと考えるのですが、局長、いかがでしょうか。
○増田政府参考人
UNHCRが行う難民の認定は、UNHCRによる自主帰還あるいは第三国定住、種々の物的援助等の各種保護を必要とする者をUNHCR事務所規程に定めるUNHCRの権限が及ぶ対象者として認定するものであり、その点で、難民条約所定の保護を与えることを目的とする難民条約締約国による難民の認定とは目的及び対象を異にするものでございますから、単純に数字を比較することはできないと考えております。
なお、UNHCRが難民性が高いと考えている者のうち、我が国は二六%しか難民認定していないという御指摘があるところでございますが、その余につきましても、人道配慮によって我が国で在留を認めているとか、あるいは日本を出国して第三国へ再定住した者が大部分を占めておりまして、この点につきましてはUNHCR自身が、UNHCRと法務省との連携の結果、近年は難民の地位に対する申し立ての大部分でUNHCRと法務省の意見は一致している、こういう評価を公表していると承知しておりまして、おっしゃられるほどに保護の点で大きな差があるとまでは考えてはおりません。
○中村(哲)委員
UNHCRと日本政府では難民審査の目的も対象も違うので審査結果が異なるのは当然だという御答弁だと思うのですが、それに対して、今まで再三同様の答弁をいただいているところでございます。しかし、本当にそれでいいのかどうかということが非常に疑問として残っています。私は、難民を審査する能力、日本の難民審査能力の低さがあるのではないかというふうに考えております。
私の質問主意書に対する昨年八月二十七日の回答、またことし一月二十八日の回答において、政府、法務省は繰り返し、難民審査の専門官を私たちは擁しておって、ノウハウも蓄積しているといった趣旨の回答をされております。
確認しますけれども、難民調査官というのはどういう人たちがついているのでしょうか。また、彼らの専門性を高める工夫としてはどのようなことを行っているのでしょうか。
○増田政府参考人
難民調査官は、入国審査官の中で専門的な知識を必要とする難民認定事務を行うのにふさわしい知識経験等の資質を備えた者の中から法務大臣が指定しております。
まず、入国管理局職員に対しては、経験の浅い職員を対象とした初等科研修、それから中堅職員を対象とした中等科等の研修におきまして、難民認定関係の科目を設けて難民に関する基本的な研修を実施しております。
また、難民の認定のために必要な事実の調査を行う難民調査官は、申請者の出身国をめぐり刻々と変化する国際情勢に関する専門的な情報や知識を習得する必要がございますので、新任の難民調査官を含めまして、全国に配置している難民調査官等に対し、これらをめぐる情報とか知識などを習得させることを目的として、毎年、外務省、UNHCR等外部から講師を招くなどして研修を実施しております。ちなみに、昨年の研修期間は二週間で、毎日九十分の講義を四こま実施しております。
その研修内容につきましても、毎年よりよい研修となるよう改善に努めておりまして、例えば昨年は、心的トラウマを受けた難民申請者へのインタビュー技術を習得するための心理学者による講義、あるいはインタビュー技術の向上を図るための実践的講義や研修などを取り入れました。
これらに加えまして、昨年は、主に東京入管に配置されている難民調査官ですが、これらを対象として、難民関係の研修を一週間に一回ずつ、約一カ月間の日程で実施しました。
今後とも、難民調査官の能力や専門性の向上を図るため、これまでの研修期間あるいは研修内容を随時見直しまして、研修体制の充実強化に努めてまいりたいと考えております。
○中村(哲)委員
お話を聞いていると、十分な研修を行って調査官はしっかり育てているというふうな御答弁だと理解をさせていただくわけですが、現場の弁護士さんたちはそのように感じていらっしゃいません。
ここに、全国難民弁護団連絡会議がお調べになった「難民調査官の資質、技能、知識や態度が問題となった事例 二〇〇三年二月」というものがあります。ここに載っていることを聞いたら、驚くべきことがいろいろ書いてあるわけです。
難民調査官に任命されるに際して何ら特別な研修を受けることなくそのまま業務についていた事例。入省三十二年目にして突然難民調査官に任命されて二年間のみ難民調査官として勤務した者であった事例。最低限の知識さえないということが認められる事例として、この難民認定基準ハンドブック、これもごらんになっていなかった事例。「灰色の利益」という言葉自体をお知りにならなかったという事例。難民の定義として記載されている「特定の社会的集団」という用語すら頭に入っていなかった事例。
もっともっといろいろあるんですけれども、一番ひどいのでは、カルザイ大統領の名前を知らなかった調査官。タリバンのことについて新聞報道されるまで知らなかった調査官。また、バングラデシュの状況をよく把握していない調査官に、UNHCRはよく知っていたと指摘したところ、それはあちらは専門家だからと答えた調査官。いろいろありますね。さっきのカルザイさんの件では、カルザイと言っているのに「カイザイ」と書いたり、また読み聞かせのときにはカイザルと読んだり、そういったことがある。
このときに、立ち会いの弁護士さんの感想は、このように述べられているんです。実は、私は難民異議のインタビューに立ち会うのは初めてでしたが、本当に腰が抜けるほど驚きました。ほかの弁護士がさんざん問題点を指摘していることが全く大げさではなかったことを身をもって知ってしまった次第です。人のよい不器用なおじさんタイプと言えなくはないのですが、難民認定手続は、ある意味人の命にもかかわる手続なのですから、到底このような人に関与させてはならないと思いました。このように立ち会い弁護士の方が感想を述べられているんですね。
実は、こういったことが現場で起きている。今、局長がおっしゃったように、近年まれに見るハイスピードで研修体制は整っているんだと恐らく思うんです。しかし、今までこういった事例が脈々としてあって、現場の弁護士さんは、難民調査官の資質がどうなっているんだという気持ちを感じていらっしゃる。そういった実情に対して、大臣は御存じでしょうか。
○森山国務大臣
個々のケースにつきまして、今御指摘のあったようなことにつきましては、必ずしも詳しく存じていたわけではございませんし、事実確認ができていない部分が多いものですから、個人的な難民調査官の資質について私が判断をするということは差し控えさせていただきたいと存じます。
いずれにいたしましても、私といたしましては、これまで難民調査官全体の能力を向上させるために鋭意努力をしているものでございまして、また入国管理局でも精いっぱいやっていると思いますので、激動する国際情勢のもとにおいて的確に難民認定業務が行われますように、今後とも一層資質を高める必要があると考えております。
○中村(哲)委員
私、これは矯正局の今行われている問題と相通ずるところがあると思うんですよ。
つまり、入管局においても、難民調査官がどのような仕事をしているのかということについては、現場でどういうふうなことをしているのかということについてチェックする仕組みが今ないのじゃないか。
確かに、今、研修は一生懸命していますというふうに局長おっしゃっていましたけれども、その研修の結果、どのような人材が育っていて、その適切な配置はどのようになっていて、もう本当にびっくりするような事例では、きょうは応援に来ただけですというようなことをおっしゃる方もいらっしゃるし、供述内容にしたってパソコンできちんと打ち込めない、そして供述のやりとりがとまってしまうというような事例もたくさんある。それは、現場の方が一番よく知っておられるんです。
こういうことに対して、一個一個またこの委員会で問題にさせていただいてもいいんですけれども、より前向きな話としては、これは矯正局とも同じような話だと思うんですけれども、現場にいらっしゃる方たちがどのような仕事をされているのか、その能力の開発のシステムを含めて、そこにきちんとした手当てをする必要があるのではないか、私はそのように考えます。
もう時間も参りましたので、これで私の質問を終わります。ありがとうございました。
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