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2003年5月9日 
第156回国会 衆議院 法務委員会   
案件:裁判の迅速化に関する法律案、民事訴訟法等の一部を改正する法律案・人事訴訟法案

[1]質疑内容   [2]質疑項目   [3]会議録抜粋


[1] 質疑内容(20分) 「民事訴訟法一部改正案及び人事訴訟法案について」   

今回の法務委員会では、4月15日に代表質問を行った「民事訴訟法の一部改正法案」及び「人事訴訟法案」について、その際の法務大臣の回答等を踏まえ更なる確認を行いました。

今回の民事訴訟法の一部改正は、(1)(2年以内に裁判が終わるように)審理計画作成の導入、(2)専門委員制度の導入、(3)特許事件等の専属管轄化、等が柱となっています。

審理計画の作成については、関係者からは全ての訴訟で義務化されると大変な負担になるという不安が寄せられていました。こうした不安を政府に伝えるとともに、実際には何割程度の訴訟に対して計画を作成させようとしているのか確認しました。政府からは、現在2年以上を越えて訴訟が継続している案件が全体の7%程度であるが、その中にも特殊な事情により止むを得ず長期化している案件もあることなどから、対象は更に少なくなるのではという回答がありました。

専門委員制度は、証拠調べ等において裁判官の専門性を補う観点から導入されるものです。しかしこれが行き過ぎることにより裁判官の心象形成に影響を与え、結果的に裁判官に替わって判決を下すようなことになっては大変な問題になります。この点に懸念を表明し、専門委員の関与の範囲を限定するとともに、公平な専門委員の選定に努めるよう求めました。

人事訴訟法案については、裁判の公開停止を容認する規定が加わっていることについて、他の類型の訴訟へ波及することへの懸念を訴えました。大臣からは、そのような心配はないという答弁を期待していたのですが、実際には代表質問の際と同様、他の類型の訴訟にこうした規定を導入するか否かということは、その訴訟の特徴を踏まえたうえで判断するとの答弁しかありませんでした。

[2] 質疑項目

1.計画審理の対象となる訴訟の割合

2.証拠収集手続の拡充に米国ディスカバリー制度を導入しない理由

3.訴えの提起前の証拠収集手続以外に検討した証拠収集拡充手続の有無

4.専門委員
  1)専門委員の関与を争点整理手続までに限定する必要性
  2)専門委員の役割に関する明確な規定の有無
  3)専門委員確保のための裁判所体制のあり方
  4)候補者リスト作成に第三者機関を関与させる予定の有無

5.人事訴訟法案
  1)家庭裁判所の人的物的措置の具体的内容
  2)人事訴訟の公開停止が他の訴訟に拡大される可能性の有無

[3] 会議録抜粋

○中村(哲)委員

 民主党・無所属クラブの中村哲治でございます。

 四月十五日に、私は、民事訴訟法等の一部を改正する法律案及び人事訴訟法案について、本会議において代表質問をさせていただきました。本会議での私の代表質問、そして当委員会でのやりとりを踏まえまして、なお残っている私の懸念について、本日は質問をさせていただきます。

 まず初めに、民事訴訟法等の一部を改正する法律案についてお尋ねいたします。

 代表質問において、本法案における計画審理の対象として想定している訴訟を確認させていただきました。大臣からは、大規模な公害事件や専門的な事項が争点になる医療過誤、建設関係事件を事例として挙げられました。これについては、五月七日の当委員会におきまして山内議員も詳しく確認されましたので、ある程度範囲が明らかにされたと思います。

 そこで、最高裁にお伺いいたします。

 本法案が適用され、審理の計画を定める場合、現状の訴訟状況を踏まえれば、大体何割程度の訴訟が審理の計画を定めるべき対象となると想定しているのか、お答えください。

○園尾最高裁判所長官代理者

 お答えいたします。

 どの範囲の事件について計画審理を実施するかということにつきましては、個別の事件ごとに裁判体が決定するということになりますので、現時点でこれを正確に予測するということは難しいわけでございますが、ただ、私がこれまで民事裁判を行ってまいりました経験などに基づきまして分析いたしますと、計画審理によって二年以内の裁判を目指すというような事件がどの程度あるかという点については、こんなことが言えようかというふうに思っております。

 現在、既に全民事訴訟事件の九三%前後の事件が二年以内に終わっております。したがいまして、二年以内の裁判を目指すという観点から取り組みを検討していかなければならない対象事件としましては、全体の七%前後ということになるわけでございます。

 その中には、人的体制の整備や人事配置の工夫ということをしなければよりよい改善が見出せないというような事件もございますし、また、鑑定人の推薦体制その他専門家の補助体制ということを整備しなければ効果的な改善が難しいというような事件も相当数ございます。さらに、一方当事者が破産宣告を受けたというような事情がありまして手続が中止されておるというような事件につきましては、そのような進行をさせることが難しいということになります。

 したがいまして、そのような事件を差し引きいたしますと、計画審理によって二年以内に終結を目指すべき対象事件というのは、数から見て、先ほどの七%前後というものからさらにかなり少なくなってまいりますが、そのような認識でございます。

 このような実務の実情を踏まえまして、計画審理という方策が、なるほどこの事件についてはやるのが適切であるというような事件について実施されていきますように、今後も見守っていきたいというように考えております。

○中村(哲)委員

 それでは次に、証拠収集手続の拡充についてお伺いいたします。

 計画審理を進めるためには、計画をつくるだけでは無理であって、証拠収集を初めとして情報の収集の手段、方法を拡充する必要があるというふうに考えておりましたので、代表質問では証拠開示の手法の必要性を指摘させていただきました。

 大臣は、私の考えに基本的には同意された上で、本法案において訴えの提起前における証拠収集手続を充実させていること等を発言なさった一方で、米国のディスカバリー制度については否定的な回答をなさりました。これについては、先日山内委員が確認されたときにも同様の回答をされております。

 そこで、ディスカバリー制度は、米国で多大な費用や手間がかかるために批判されている制度であって、我が国における導入は慎重にしなければならないということでしたけれども、その懸念されている点についてもう少し詳しく説明していただけませんでしょうか。

○房村政府参考人

 委員御指摘のアメリカのディスカバリー制度でございますが、これは相手方の手中にある証拠を収集する強力な手続として機能している反面、次のような弊害が指摘されております。

 まず、この制度においては、訴訟の争点と直接関連しない証拠についてまで広範に開示が要求される、こういうことから、開示者に対して、これに対する費用、時間及び手間等の面において過大な負担を強いることが少なくない、こう言われております。このようなことから、ディスカバリーを要求する側が、いわゆる証拠あさり、どんな証拠があるかということを広くあさるということのために使うということ、またこのディスカバリーの負担が非常に重いものですから、その負担にたえられない弱者の側が不本意な和解を余儀なくされる、こういうことも言われております。

 また、そのディスカバリー手続に着目して、嫌がらせとか和解を強要するための訴訟を起こす、こういうことも言われて、それがひいては訴訟遅延あるいは司法コストの増加をもたらす、こういうような指摘がアメリカにおいても現実になされておりますので、日本でこのディスカバリーを採用するかどうかという点を検討するに当たっては、このような指摘も踏まえて相当慎重に検討する必要がある、こう考えているところでございます。

○中村(哲)委員

 日本とアメリカの訴訟の構造のあり方から、ディスカバリーは日本においてはちょっと検討を差し控えるというような観点の分析はありますか。

 例えば、手続の前提が違うとか、そういった意味での違いから生じてくるディスカバリー制度の問題点というのはありませんか。

○房村政府参考人

 これは、アメリカのディスカバリーの場合は訴え提起後にやりますが、ディスカバリーの交渉は基本的にすべて当事者に任されております。ところが、日本の場合には、訴訟提起後は、訴訟進行に当たって裁判所が主導権を持って計画的な進行を図るという基本構造をとっておりますので、構造的にはややマッチしない面があることは事実でございます。

○中村(哲)委員

 それでは、証拠開示の方法について、今回御提案されている訴えの提起前の証拠収集以外に、今後何か新しい制度は検討されていないでしょうか。

○房村政府参考人

 私どもとしては、この計画審理のためには、訴訟提起前に証拠を集める手段を拡充する必要があるということで、今回改正をお願いしているわけでございます。

 そういう意味で、今回の法案が成立しました場合に、その利用状況等を踏まえながら、問題点を調査して、さらに証拠収集の拡充が必要となるかどうかということについては検討をしてまいりたい、こう考えております。

○中村(哲)委員

 例えば、法制審などではどういうことが検討されているでしょうか。

○房村政府参考人

 現時点において法制審で検討しておりますのは、証拠関係では文書提出命令の問題について具体的な検討をしておりますが、広く一般に証拠収集手段を拡充するかどうかという点については、この法案の施行がされましたら、その状況等も踏まえて、さらに必要な検討を加えたいと考えているところでございます。

○中村(哲)委員

 時間がないですので、次に行きます。

 専門委員制度について、私は、裁判官の知識の拡充の観点から、本制度の創設は有意義なものと考えております。しかし、もともと民事訴訟法というものは対立当事者間において主張や立証を尽くす中から真実を究明して法律関係を確定するものであることを考えると、この導入には一定の制限が必要ではないかということも代表質問で指摘をさせていただいたところでございます。

 具体的には、裁判所はどのような場面で専門委員の関与を求めて専門的知見を導入するのかということをお聞きしました。そうすると、これまでの御答弁では、争点や証拠の整理の段階、証拠調べの段階、さらには和解の際を想定しているとの話でございました。

 そこで、お聞きいたします。

 専門委員の意見が裁判官の心証形成に影響を与えることは極力避けなければならないことは、政府自身がお認めになっておられます。専門委員の関与を極力限定すべきという観点から考えた場合、証拠調べが必要なのは争点整理が終わった後の段階なのだから、十分な争点整理ができていれば証拠調べの段階まで専門家が関与する必要はないのではないかというような考え方も出てくるところだと思います。専門委員の関与は、あくまでも争点整理の段階までというふうに限定すべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。

○房村政府参考人

 御指摘のように、争点整理が適切に行われて証拠調べに移った場合、どういう点が争点であるかということについてはもう整理ができているわけでございますが、その証拠調べの中で、例えば証人の証言あるいは鑑定人意見、こういう中に専門的事項に触れるものが相当含まれることは予想されるわけでございます。これが適切な説明が加えられておれば裁判官も理解できるでありましょうが、中には、専門的事項が突如出てくるということも十分予想されるわけでございます。

 そういう場合には、専門委員を活用してその証拠の意味を明らかにする、こういうような必要が生ずることは予想されますので、やはり証拠調べの段階においても専門委員を活用できるような措置を講じておく必要がある、こう考えております。

○中村(哲)委員

 つまり、後でそういうふうな懸念が生ずる場合もあるので、手段としては確保しておくけれども、原則として、争点が明らかになったぐらいのところまでにとどめておくのが原則的な運用のされ方というふうに認識していいわけですか。

○房村政府参考人

 いや、それは扱われている問題の専門性の程度にもよるわけで、証拠調べ段階においても、相当専門的な事柄が出てくるということが予想されれば、専門委員を活用するということをあらかじめ考えておくことは当然だろうと思います。それはやはりその専門性の程度いかんということではないかと思います。

○中村(哲)委員

 証拠調べにもある程度かかわらないといけないけれども、心証形成には極力影響を与えてはいけないということになってきますと、専門委員の役割について、きちっとした規定を設ける必要があるのではないかと考えます。

 専門委員の役割については、裁判官の知識の補充を旨として、争点に関する判断は述べてはいけない旨の規定を設ける必要があるのではないかと考えますが、もし、もう既に盛り込まれているのであれば、どの部分が規定に当たるのか、それについても述べていただけますでしょうか。

○房村政府参考人

 御指摘のように、専門委員の関与は、決して裁判官の心証形成そのものに関与するということはあってはならないわけでございます。

 そういうことから、今回の法案の九十二条の二では、まず、「争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、」こういうぐあいに、訴訟関係を明瞭にしたり手続の円滑な進行を図るためなんだ、こういうことをはっきりうたっております。また、証拠調べ段階に当たっては、「訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、」ということで、これも要するに、趣旨を明瞭にする、こういう目的のために専門委員を使うということを法律上明記しております。

 ですから、これは専門委員の方にも十分御理解いただく必要がありますし、裁判官としては当然この法の趣旨を踏まえた運用をする、こう考えております。

○中村(哲)委員

 代表質問におきましては、専門委員に関しても、中立性、公正性の観点の質問もさせていただきました。

 中立性、公正性に欠ける専門委員であれば、かえって訴訟そのものの信頼を失うおそれがある、そのため、専門委員の中立性、公正性の確保と、専門委員が関与する際の手続の透明性の確保についてどのように保障するのかということについて、代表質問でお聞きいたしました。大臣は、除斥及び忌避の制度を設けていることや、当事者双方の申し立てにより専門委員の関与を取り消す手段も設けている旨を御答弁なさいました。

 また、先日の山内議員の質疑の際に、最高裁判所からは、現在、専門委員のリストをどのようにつくるのか検討中という回答もありました。

 そこで、裁判所としては、当事者双方が自身で適切な専門委員を確保できない場合等に対応するために、各裁判所において候補者のリストを整備していくという方針が定まっていると理解してよろしいんでしょうか。

○園尾最高裁判所長官代理者

 専門的な問題というのは、専門家の数も限られる、それから内容も極めて難しいということですから、訴訟が起こりましてから考えるということでは迅速な対処ができないというおそれがございますので、これは、御指摘のとおり、あらかじめ裁判所において、専門委員のリストといいますか、むしろ専門委員の任命自体を幅広く行っておきまして、具体的事件に応じて必要が生じた場合に、適切な者をさらにその中から指名していくというような仕組みを考えてございますので、御指摘のとおりということになります。

○中村(哲)委員

 それでは、山内委員が提案したように、その候補者リストの作成、管理に当たっては、裁判所のみで検討するのではなく、弁護士や専門家など、幅広く第三者が加わった委員会をつくって、その委員会が担当すべきということを考えますが、その点についてはいかがでしょうか。

○園尾最高裁判所長官代理者

 公平性、中立性ということは、裁判所が裁判手続を行う上で最も重要なことでございますので、専門委員の選定に当たりましては、幅広い層から専門委員をできるだけ選ぶように工夫するということのほかに、ただいま御指摘のような第三者機関の意見を聞くというような手続についてもさらに検討するという考えでございます。

○中村(哲)委員

 時間がありませんので、特許関係の専属化についてもお聞きしたいと思っていたんですが、山花委員も先ほど述べられましたので飛ばしまして、次に、人事訴訟法案について少しお尋ねいたします。

 代表質問で、家庭裁判所に対する人的、物的な手当てについて確認したところ、最高裁判所が適切に対処するとのことでしたが、具体的にはどのように対応をなさるつもりなのでしょうか。来年度の予算手当てや人員の手当ても含めて、もう少し具体的な説明をお願いいたします。

○中山最高裁判所長官代理者

 裁判官と書記官につきましては、これまで人事訴訟が地方裁判所にかかっていたわけでございますから、そこの担当していた人員を家庭裁判所の方にシフトするということによって、現実的な対応は可能であります。

 問題は家庭裁判所調査官でございますが、これは、さきにこの法務委員会でも御審議いただきましたとおり、定員法の審議の際のとおり、三十人の増員をお認めいただきました。これを適切に活用してまいりたいと考えているところであります。

○中村(哲)委員

 次に、人事訴訟法二十二条の公開停止の議論もさせていただきたいんですが、先ほど山内議員とのやりとりを聞いておりまして、結局、公の秩序を害するおそれがある場合ということを各訴訟類型によって判断するという話でしたが、それを考えますと、具体的には、人事訴訟法よりも広がるということはほかの訴訟ではないというふうに考えていいということですよね、少なくとも。

○房村政府参考人

 公開停止につきましては、憲法上、公の秩序に反するような場合に公開停止をすることができるとなっておりまして、これは各訴訟類型を通じて適用があるわけでございます。

 今回、私どもが考えましたのは、人事訴訟法に特有の場面について、その憲法が予想している要件あるいは手続を明確にすることによって裁判所が安定した判断ができるようにということを考えたわけでございます。

 他の訴訟類型について同様の問題があるかどうかということは各訴訟類型ごとに検討すべき事柄である、今回は人事訴訟に限って、こういう場面があるので、この場合にはこういう手続、要件を定めることが憲法の安定的な運用をもたらすことにつながるんだ、こういうことでございます。

○中村(哲)委員

 さらに確認をさせていただきたいところですけれども、本日は後に本会議も迫っておりまして、時間もタイトでありますので、ここで質問を終了させていただきます。

 ありがとうございました。


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