2002年5月28日
第154回国会 衆議院 本会議  

案件: (内閣提出)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案

    (民主党案)裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案
            精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案
            心神喪失観察法/政府案と民主党案との比較
            心神喪失観察法/民主党の「対案」の全体スキーム

[1]質疑内容   [2]会議録抜粋


[1] 質疑内容(15分)                         

政府提出の本法案とこれに対する民主党案について、当選以来初めて、本会議場の演壇で質問に立ちました。

政府案では、重大犯罪を犯した人のうち、不起訴処分になった人や、裁判で心神喪失による無罪、心神耗弱で刑が減軽になった人について、裁判所で「再犯のおそれ」ありとされた場合、医療機関へ入院や通院を命ずることができます。入院や通院の判断は、精神鑑定結果をもとに精神科医と裁判官で行います。

一般に、本法案は2000年6月の大阪教育大付属池田小学校での児童殺傷事件を契機に作られたとされています。しかし、この事件の被告は起訴され、裁判も刑事責任能力のあることを前提として進んでいますので、本法案の対象とはなりません。むしろ、政府案は、本来の目的であった精神障害者の再犯防止ではなく、かえって300万人の精神障害者に対する偏見を助長する可能性が高いと考えているので、政府案に反対の立場から質問をしました。また、精神に障害を持つことは、誰にでも起こりうることなので、審議の際はぜひ各議員に自己の問題として捉えてもらうよう、訴えました。

「再犯のおそれ」の有無の判断は、ほとんどの専門家が不可能と意見表明をしています。そのもとで医療機関への入院・入院の継続の有無を判断させると、再犯の可能性が無いと確信できなければ、どうしても入院・入院継続、との判断にかたむいてしまいます。すると、今でさえ長期入院の多い精神障害者はますます長期入院を強いられてしまいます。
   
政府案の危険性は、精神障害者を社会から隔離する、保安処分の性格が強いことにあります。池田小学校事件のような事件再発防止には、民主党案にあるような起訴前段階のきめ細かい精神鑑定を、まずは整備することが必要です。

関連メルマガ「国会からの手紙」第147号

[2] 会議録抜粋  中村の質問部分へジャンプ

○国務大臣(森山眞弓君)

 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 心神喪失または心神耗弱の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われることは、被害者に深刻な被害が生じるだけではなく、精神障害を有する者がその病状のために加害者となる点でも、極めて不幸な事態であります。このような者につきましては、必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることにより、その社会復帰を図ることが肝要であり、近時、そのための法整備を求める声も高まっております。

 そこで、本法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療の実施を確保するとともに、そのために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進しようとするものです。

 この法律案の要点は、以下のとおりです。

 第一は、処遇の要否及び内容を決定する審判手続の整備についてです。

 心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行い、不起訴処分をされ、または無罪等の裁判が確定した者につきましては、検察官が地方裁判所に対してその処遇の要否及び内容を決定することを申し立て、裁判所におきましては、一人の裁判官と一人の医師とから成る合議体が、必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聞いた上で審判を行うこととしています。この審判におきましては、被申立人に弁護士である付添人を付することとした上、裁判所は、精神科医に対して被申立人の精神障害に関する鑑定を求め、この鑑定の結果を基礎とし、被申立人の生活環境等をも考慮して、処遇の要否及び内容を決定することとしております。

 第二は、指定入院医療機関における医療についてです。

 厚生労働大臣は、入院をさせる旨の決定を受けた者の医療を担当させるため、一定の基準に適合する国公立病院等を指定入院医療機関として指定し、これに委託して医療を実施することとしています。指定入院医療機関の管理者は、入院を継続させる必要性が認められなくなった場合には、直ちに、裁判所に退院の許可の申し立てをしなければならず、他方、入院を継続させる必要性があると認める場合には、原則として六カ月ごとに、裁判所に入院継続の必要性の確認の申し立てをしなければならないこととし、あわせて、入院患者側からも退院の許可等の申し立てができることとしております。

 また、保護観察所の長は、入院患者の社会復帰の促進を図るため、退院後の生活環境の調整を行うこととしています。

 第三は、地域社会における処遇についてです。

 退院を許可する旨の決定を受けた者等は、厚生労働大臣が指定する指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに、保護観察所に置かれる精神保健観察官による精神保健観察に付されることとしております。

 また、保護観察所の長は、指定通院医療機関の管理者及び患者の居住地の都道府県知事等と協議して、その処遇に関する実施計画を定め、これらの関係機関の協力体制を整備し、この実施計画に関する関係機関相互間の緊密な連携の確保に努めるとともに、一定の場合には、裁判所に対し、入院等の申し立てをすることとしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。(拍手)

    ―――――――――――――

○議長(綿貫民輔君) 提出者水島広子君。

    〔水島広子君登壇〕

○水島広子君

 ただいま議題となりました精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案並びに裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案の趣旨を説明いたします。

 昨年六月八日に大阪教育大学附属池田小学校で起こった児童殺傷事件は、思い出すだけでも胸が締めつけられるような、大変痛ましい事件です。この事件を精神障害によるものと早合点した小泉首相は、事件の翌日には既に刑法の見直しに言及し、日本の各地で精神障害者がさまざまな攻撃を受け、さらなる偏見にさらされる原因をつくりました。

 池田小学校の事件は、ふたをあけてみれば、心神喪失などとは関係がないと判断され、犯人は起訴されております。それなのに、政府は、みずからの誤解と偏見に満ちた決めつけを反省することもなく、さらにその勢いに乗って、短期間のうちに新たな法案まで作成してしまいました。

 私たちは、池田小学校事件の直後から、政府の対応を見て、危機感を強めてまいりました。当事者、そして当事者を支える人たちの努力の積み重ねによって、少しずつ社会がノーマライゼーションの方向に向かいつつあるときに、すべての努力をぶち壊しにしかねない政府の対応に強く抗議いたします。

 また、いつまでたっても日本社会が精神障害者への差別意識を克服できないのは、精神医療のおくれをたびたび指摘されながら積極的に何も取り組んでこなかった行政のおくれが根本的な原因であるのに、あたかも精神障害者その人に責任があるかのような風潮をつくり出したことにも、大きな憤りを感じます。

 もちろん、私も、精神科医療の現場にいた者として、現状のままでよいと思っているわけではありません。特に、従来から指摘されているように、司法手続における精神鑑定のあり方、中でも起訴前の安易な鑑定が多いことは大きな問題です。今回の池田小学校事件の犯人が、過去に軽微な犯罪行為を繰り返していたときに、きちんとした精神鑑定を受けていたならば、その時点で何らかの刑事処分がなされることによって、今回のような重大な犯罪は防ぎ得たでしょう。

 また、現行の措置入院制度が必ずしもきちんと運用されていないこと、地域における精神保健福祉体制が不十分なため、精神科受診が困難であったり、通院治療を中断するケースが少なくないこと、刑事施設等における精神医学的治療・援助が不十分かつ不適切であること、司法関係者と精神医療関係者の相互の連携協力が不十分であることなどが改善を必要とする問題点です。

 政府案は、鑑定の問題にも全く触れていませんし、これらの要求に到底こたえられないばかりか、精神障害者に対する差別や偏見を助長するものとして有害ですらあります。

 以上の認識に基づき、新たな立法をするのではなく、現行制度の改善という観点から対案を作成いたしました。

 以下、本法案の内容を簡単に説明いたします。

 第一に、起訴前、起訴後の精神鑑定の適正な実施を目的として、最高裁判所と最高検察庁にそれぞれ司法精神鑑定センターを設置し、鑑定人の選定事務、個別の精神鑑定に係る情報または資料の調査研究及び分析等を行います。

 これにより、鑑定人の選定に関して裁判官や検察官の負担を軽減することができるとともに、鑑定精神科医の偏りや鑑定結果のばらつきなどを防ぐことができると考えます。また、情報の収集や分析によって、より高度の精神鑑定技能を開発していく道を開くことも期待できます。

 第二は、判定委員会の設置です。

 都道府県に新たに判定委員会を置くものとし、精神保健指定医のうちから都道府県知事が任命する委員で構成します。委員二名の合議体で、措置の入退院、措置解除の判定を行い、委員の意見一致が条件になっております。

 第三に、現行の措置診察が極めて限られた情報の中で慌ただしく行われているという現状を踏まえ、精神保健福祉調査員を新設し、措置診察の必要性を判定するための調査及び判定委員会の求めに応じたさまざまな調査を専門的な立場から行い、より厳格な措置入院の判定をサポートします。

 第四に、人員配置基準の低い精神科の病棟では、人手の少なさゆえに十分な医療を施すことができないため、精神科集中治療センターを指定します。

 これは、政府案にあるような、収容を目的としたものではなく、あくまでも通過施設として位置づけられます。また、政府案のように、重大な犯罪行為の有無や再犯のおそれを要件とするものではなく、あくまでも治療上の必要から手厚いマンパワーで医療を提供する精神科ICUです。

 第五に、社会復帰支援体制の強化として、精神障害者の保健及び福祉に関する業務を行う者の相互連携を図ります。

 政府案と異なり、この仕組みが機能すればするほど、地域の各職種の連携が密になり、措置退院患者以外の方たちにもプラスに作用するというのが民主党案の特徴です。

 政府案では、保護観察所を軸にした通院継続の仕組みが他の精神障害者に恩恵をもたらすことはありません。

 以上が、提案理由及び概要です。

 政府案にある再犯のおそれの判定は、多くの専門家が指摘しているように、そもそも科学的に不可能です。そんな基準を根幹に据えた政府案は、日本の精神障害者施策の中で永遠の汚点となるでしょう。

 私たちは、本改正案のほかにも、精神保健福祉改善十カ年戦略を提案しており、ノーマライゼーションの実現に向けて全力で取り組んでおります。

 精神障害は、どこにでも起こり得ます。自分の子供あるいは孫が精神障害を持っていたらという想像力を働かせて、議員の皆様が政府案に反対し、本法案を成立させてくださることを心よりお願い申し上げ、趣旨の説明とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

     ――――◇―――――

○議長(綿貫民輔君) 

 ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。中村哲治君。

    〔中村哲治君登壇〕

○中村哲治君

 民主党・無所属クラブの中村哲治です。

 ただいま議題となりました四法案について質問をさせていただきます。(拍手)

 具体的な質問に入ります前に、この四法案は、国民の心の健康と深く関係しています。そこで、国民の心と国家のあり方の関係をまず議論させていただきます。

 二十世紀は、物、金の世紀でした。明治以来の中央集権化、工業化、経済発展によって、私たち日本人は、豊かな生活を手に入れることができました。しかし、かわりに、何か大切なものを失ってしまったのではないでしょうか。

 私は、一九七一年、昭和四十六年生まれです。豊かな時代に育った世代だからこそ、今の行き過ぎた物質文明の弊害を実感しています。

 日本社会は、古く、私の出身地である奈良に都があったときから、自分たちとは違う異質な人や文化を受け入れて発展してきました。律令制も中国から受け入れた文化です。その豊かな精神性を、今、取り戻さなくてはならないのではないでしょうか。(拍手)

 国家は国民の心の健康を最重要の課題としなくてはならない。二十一世紀を心の世紀としなくてはならない。かつて、この演壇で、自由民主党の幹事長は、今お話しになっておりますが、何としても、二十一世紀は心を取り戻す世紀にしなければならないとおっしゃいました。また、公明党の綱領には、人間主義が掲げられております。私たちだけでなく、与党の皆様も含めて、ここにいらっしゃる皆様のすべてが、物質文明の限界を認識し、二十一世紀は心の世紀としなくてはならないとお感じになっているのではないでしょうか。(拍手)

 このたび議題となっております四法案についても、そういう認識のもとで、きちんと議論する必要があります。

 ここで、改めて、皆さんに確認させていただきたいことがあります。一般的に、精神障害者は犯罪を行いやすいと思われています。しかし、それは偏見です。実は、精神障害者の再犯率は一般人よりも低いのです。例えば、殺人事件の再犯率は、一般人は二八%です。それに比べて、精神障害者は七%にすぎません。つまり、精神障害者の再犯率は、一般人の四分の一以下なのです。改めて、このことを強く認識していただきたいわけでございます。

 精神障害者は、日本社会から、差別の目、偏見の目にさらされています。先日、私は、ハンセン病の患者、元患者の追悼式に参列させていただきました。そこで感じたことは、国家の政策により隔離された人たちの人生の重さでした。私たち国会議員は、差別や偏見に対して理性で闘わなくてはならない。安易に隔離政策をとることにより、らい予防法やエイズ予防法で犯した過ちを再び繰り返してはなりません。だれだって、社会の中で生き生きと生きていきたいものです。

 心の健康を害するということは、議員の皆様にとっては、自分とは関係のないことだとお考えになるかもしれません。しかし、複雑な現代社会においては、だれもがなり得ることです。精神医療を受けている方は、全国で三百万人、十家族に一人です。体の健康を害すると同じように、皆様すべてに可能性があることです。どうか、我が身の問題だと思って審議をしてください。(拍手)

 以下、具体的な質問に入らせていただきます。

 政府案についてお伺いいたします。

 昨年六月の池田小学校事件の後、小泉総理は、再発防止に向け、今回は法律の整備をきちんとしていきたいとおっしゃっていました。政府の事前の説明によりますと、この政府案は、そもそも、法務省と厚生労働省で長年取り組んできた課題であり、直接には池田小学校事件とは関係がないとしています。しかし、マスコミの報道や一般国民には、池田小学校事件がきっかけだと認識されています。そのずれをどのように考えているのか、政府の見解を伺います。

 私は、以下の二つの理由で、政府案では、池田小学校事件の再発防止にはならないと考えています。

 第一に、池田小学校事件の被告人は、起訴前の本鑑定により、責任能力を認められております。心神喪失でも心神耗弱でもありません。つまり、判決後でも、心神喪失等を理由として無罪となる可能性は低く、その場合には、この政府案の対象にはならないのです。

 第二に、池田小学校事件の被告人は、事件前には十三回の逮捕歴がありました。しかし、政府案が対象とする重大な犯罪行為は行っていませんでした。つまり、今後、同様のケースがあったとしても、政府案では防げません。

 政府案により池田小学校事件の再発が防げるとお考えになっているのか、法務大臣に伺います。

 また、民主党対案は、なぜ、政府案と違い、現行制度の見直しなのか、池田小学校事件のケースもカバーできるのか、あわせて伺います。

 私が政府案で最大の問題だと考えるのが、「再び対象行為を行うおそれ」、いわゆる再犯のおそれの要件です。まず、そもそも、再び対象行為を行う予測ということが現在の科学で可能なのかどうか。我が国の精神医学において最も歴史と権威を持つ日本精神神経学会が、五月十一日に、公式に、再犯の予測は不可能だと表明しています。再び対象行為を行う予測が科学的に可能であるという根拠を政府に伺います。

 また、おそれという要件はどの程度なのか、はっきりしません。もし、再犯のおそれなしとして再犯が起こってしまった場合、判断をした裁判官や精神科医は社会的に批判を浴びかねません。つまり、再犯の可能性が全くないと確信できなければ、再犯のおそれなしと判断はしにくいでしょう。そうすると、ほとんどのケースにおいて再犯のおそれがあると判断せざるを得なくなります。再犯のおそれがないと判断する基準は何なのか、政府に伺います。

 私が懸念するのは、このはっきりしない要件によって、結局、長期間の入院をさせられることになってしまうということです。十年、二十年入院していた人は、社会性を失い、病院の外で生活できなくなります。実際、今、精神病院に入院している人の四三%は、五年以上入院している人たちです。結局、一生退院できなくて、実質的な終身刑になってしまう、形を変えた保安処分になってしまう、そういう懸念があります。その点についての政府の見解を伺います。

 私は、二つのポイントがあると考えています。一つは、精神医療、精神福祉の問題、もう一つは、精神鑑定の問題です。

 現在の精神病院の状況は劣悪です。おととし十月二十五日の厚生委員会において、山井和則議員の質問に対して、当時の津島厚生大臣がお認めになっています。自分がその立場になったら精神的にも打撃を受けるだろうなと思いますという趣旨のことをおっしゃっています。このように、精神医療、精神福祉の現状は非常に不十分です。例えば、精神障害者は、精神福祉が不十分なため、社会的入院を強いられています。精神病院の入院患者三十三万人のうち二割の人は、ほかに受け入れ先さえあれば、退院が可能なのです。

 私は、心の健康を害した国民をしっかりケアするのが近代国家の役割であり、そういうケアがきちんとできていることを前提として、初めて政府案を議論する余地もできてくるのではないかと考えます。精神医療、精神福祉は、近代国家、近代立憲主義国家としての最重要の課題であると考えますが、厚生労働大臣のお考えをお聞かせください。

 また、提出者案では、精神科集中治療センター、いわゆる精神科ICUを創設することとしています。政府案の指定入院医療機関との違いをお聞きいたします。

 次に、精神鑑定の問題です。

 池田小学校事件のケースでも、被告人が過去、数々の犯罪行為を行ったにもかかわらず、安易な簡易鑑定により起訴されませんでした。現行の精神鑑定制度に問題はないのか、政府の認識を伺うとともに、提出者には、対案にある司法精神鑑定センターの設置も、あわせて、御認識を伺います。

 最後に、ここにいらっしゃる皆様に改めてお願いいたします。

 言うまでもなく、近代立憲国家にとって第一の使命は、国民一人一人の自由と人格の尊厳を守ること、つまり人権を守ることです。安全保障も民主主義も、究極的には、人権保障の手段と位置づけられます。(拍手)

 また、二十一世紀が国際化の時代であることは、言うまでもありません。異質な文化を受け入れずして、国際社会は成り立ち得ません。日本社会は、異質なものを受け入れて発展してまいりました。しかし、物質文明に走ってしまった二十世紀には、異質なものを排除するという政策をとり、さまざまな問題を引き起こしてしまいました。いま一度、日本社会に異質なものを受け入れる柔軟性を取り戻す必要があると私は考えます。(拍手)

 国民の心の健康なくして、健全な国家の再生はあり得ません。繰り返しになりますが、立憲民主主義国家にとって、国民の心の健康は国家の最重要の課題とすべきことです。

 議員の皆様には、改めて、この問題が、二十一世紀、国民の心と日本という国家の新しい関係を築いていく……

○議長(綿貫民輔君)

 中村哲治君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。

○中村哲治君(続)

 その問題となるということを御認識いただいて、私の質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣森山眞弓君登壇〕

○国務大臣(森山眞弓君)

 中村議員にお答え申し上げます。

 まず、政府が提出した法律案の立案経緯と、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件との関係についてお尋ねがございました。

 御指摘のとおり、法務省及び厚生労働省におきましては、この事件が起こる前から、精神障害により重大な他害行為をした者に対して適切な医療を確保するための方策やその処遇のあり方等について検討を行っておりましたところ、この事件をきっかけといたしまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について、精神医療界を含む国民各層から、適切な施策が必要であるとの意見が高まったものでございまして、このような意見の高まりや与党プロジェクトチームでの調査検討結果等をも踏まえ、今回、このような者に対する適切な処遇を確保するため、本法律案により新たな処遇制度を創設することとしたものであります。

 政府案により大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件のような事件の再発が防止できるのかとのお尋ねがございました。

 この法律案は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われた場合に、これを行った者に対し、継続的に適切な医療を行い、また、医療を確保するために必要な観察と指導を行うことによりまして、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を促進することを目的とするものであり、そのような者が精神障害に起因して再び重大な他害行為を行うことを防止する効果があると考えております。

 いわゆる「再び対象行為を行うおそれ」の要件についてお尋ねがありました。

 現代の精神医学によれば、精神科医が、その者の精神障害の類型、過去の病歴、現在及び重大な他害行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される症状、他害行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容等を考慮して慎重に鑑定を行うことにより、その精神障害のために再び対象行為に該当する重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することは可能であると考えています。

 この点については、精神保健福祉法による措置入院に際しましても、精神保健指定医が、その者の自傷、他害のおそれの有無を診断しておりますが、この他害行為とは、同法第二十八条の二第一項に基づく厚生労働大臣の告示にも示されておりますように、殺人、傷害、窃盗等の、他人の生命、身体、財産等に害を及ぼす行為を指すものとされております。また、諸外国においても、医師により、その精神障害に基づき再び他人に危険を及ぼす行為を行うおそれの有無が判断されていると承知しております。

 いわゆる再び対象行為を行うおそれの有無の判断基準についてお尋ねがございました。

 政府案におきましては、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために、再び殺人等の人の生命、身体に重大な害を及ぼす行為や放火等の重大な他害行為を行うおそれがあると認められた場合に、初めて本制度による処遇を行うこととしております。

 御指摘のように、再びこのような重大な他害行為を行う可能性が全くないと確信できなければ本制度による処遇を行うことになるというものではありません。

 また、このようなおそれがあると認められるか否かについては、鑑定を命ぜられた精神科医が、その者の精神障害の類型、過去の病歴、現在及び重大な他害行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される症状、他害行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容等を考慮して判断した後、職業裁判官と医師により構成される裁判所が、この鑑定結果を基礎として、その者の生活環境等をも考慮した上で最終的に判断することとなります。

 対象者の入院期間についてお尋ねがありました。

 本制度による処遇は、本人の社会復帰を促進することを最終的な目的としております。このような目的に照らしますと、入院させて継続的な医療を行わなければ再び殺人等の人の生命、身体に重大な害を及ぼす行為や放火等の重大な他害行為を行うおそれがあると認められる場合には、その入院を継続させ、手厚い専門的な治療を行うことにより、その社会復帰を促進する必要があると考えられます。

 しかし、このようなおそれの有無は、その病状や治療状況等により左右されますので、あらかじめ入院期間の上限を定めることは適当ではないと考えられますことから、これを定めないことにしているものでございます。

 そして、本制度においては、入院期間が不当に長期にわたることがないようにするため、原則として六カ月ごとに、裁判所が入院継続の必要性の要否を確認することとするなど、必要な措置を講じております。

 また、本制度による処遇は、刑罰にかわる制裁を科するものではなく、また、いわゆる保安処分とも異なります。したがって、実質的な終身刑になるとか形を変えた保安処分になるということはございません。

 起訴前の鑑定のあり方についてお尋ねがありました。

 検察当局においては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の処理に当たり、犯行に至る経緯、犯行態様や犯行後の状況等について、刑事事件として処理するために必要な捜査を尽くし、事件の真相を解明した上で、犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等の諸事情を総合的に勘案し、適切な処分を行うよう努めているものと承知しております。その際には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、行われるべき精神鑑定の手段、方法についても適切に選択しているものと承知しており、現在の鑑定のあり方に重大な問題点があるとは考えておりません。

 なお、御指摘の事件の被告人が過去に起こした事件についても、事案の内容及び軽重、被害者の処罰感情等を考慮した上で、精神診断の結果も参考として、起訴、不起訴の処分がなされたものと承知しており、安易な簡易鑑定により起訴しなかったとの御指摘は当たらないものと考えております。(拍手)

    〔国務大臣坂口力君登壇〕

○国務大臣(坂口力君)

 中村議員の御質問にお答えをさせていただきたいと存じます。

 政府案の提案のきっかけになったのは何かというお尋ねでございました。

 法務省と厚生労働省におきましては、平成十一年の精神保健福祉法改正の際の、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進める」べきとの附帯決議を受けまして、合同検討会を設けて、精神障害により重大な他害行為をした者に対しまして、適切な医療を確保するための方策やその処遇のあり方につきまして検討してきたところでございます。その後、大阪の池田小事件が起こりましたことは御指摘のとおりでありまして、そのことが影響を与えたことも事実であるというふうに思っております。

 再犯予測についてのお尋ねがございました。

 現代の精神医学、例えば、国際的に標準的と言われておりますオックスフォード精神医学教科書、これは二〇〇〇年版でございますが、これによりますと、精神科医が予測を行うことは当然とされており、その者の精神障害の類型、過去の病歴、現在及び重大な他害行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、重大な他害行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容等を考慮して慎重に鑑定を行うことにより、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能であると考えておるところでございます。

 再犯のおそれがないと判断する基準についてお尋ねがございました。

 本制度では、継続的な医療を行わなければ再び対象行為を行うおそれが全くないと確信できなければ必ず本制度の処遇を行うというものではありません。逆に、本制度では、こうしたおそれがあると認められる場合に初めて処遇を行うことといたしております。

 現代の精神医学においては、重大な他害行為を行うおそれがあることを判断することは可能であり、したがって、このおそれがあるとは認められないと判断することも可能であることから、御指摘のようなことは生じないと考えております。

 最後に、精神医療及び精神障害者福祉についてのお尋ねがありました。

 精神医療及び精神障害者福祉の充実は、議員御指摘のとおり、重要な課題でありまして、今後、患者の病状に応じた精神医療を確保するための精神病床の機能分化、入院患者の社会復帰や地域における生活を支援するための社会復帰施設の整備、居宅生活支援事業等を推進してまいりたいと考えております。

 このため、精神保健医療福祉の総合計画を策定することとし、現在、社会保障審議会の障害者部会におきまして、鋭意検討を進めているところでございます。

 この検討結果を踏まえまして、障害者基本法に基づく新しい障害者基本計画及び新しい障害者プランにおきまして、精神障害者全般についての総合的な対策を盛り込み、来年度よりその推進を図ってまいりたいと考えております。

 以上、御答弁を申し上げた次第でございます。(拍手)

    〔水島広子君登壇〕

○水島広子君

 中村議員の御質問のうち、精神保健福祉に関する部分についてお答えします。

 民主党案はなぜ現行制度の見直しなのかというお尋ねがございました。

 本来、地域における精神保健福祉体制が十分に確保されていれば、精神障害者の孤立や治療中断が防がれ、心神喪失などのために不幸にして自傷・他害事件を起こす人を確実に減らすことができます。また、措置入院制度が適切に運用されていれば、医療上の必要性にこたえる十分な治療を提供することができるはずです。

 政府は、これらの問題に真正面からこたえることができないため、新たな制度をつくって人々の目をそらそうとしているように見えます。私たちは、今、本当に問われていることは何なのかという本質を考え、現行制度の見直しを提案しております。

 また、精神科集中治療センターについて、政府案の指定入院医療機関との違いのお尋ねがございました。

 日本の精神科の病棟は、人員配置基準が低いため、手厚い人手を必要とする人たちに十分な医療を施すことができません。このことが早期の社会復帰を阻害しているということは、随所で指摘されています。

 民主党案では、通過施設としての精神科集中治療センターを指定し、一般の措置指定病院での治療が可能となるまでの入院治療を行うことを提案しています。これは、いわゆる処遇困難病棟や重症措置治療病棟をイメージしたものではなく、あくまでも治療上の必要から手厚いマンパワーで医療を提供する精神科のICUです。一般医療でも、病状が重いときにはICUで治療を受け、ある程度落ちつくと一般病棟に移されますが、まさに、そんなイメージで御理解いただければと思います。

 政府案の病棟は、重大な犯罪行為の有無や再犯のおそれを要件としており、また通過施設として位置づけられているものでもなく、社会防衛上の観点から、必然的に長期にわたる拘禁をもたらすものになることは明らかであり、医療上の必要性のみによってつくられる民主党案の精神科ICUとは完全に異なるものであると言えます。(拍手)

    〔平岡秀夫君登壇〕

○平岡秀夫君

 中村議員の御質問のうち、司法鑑定の部分についてお答えいたします。

 まず、中村議員から、民主党対案はなぜ現行制度の見直しなのか、池田小学校事件のケースもカバーできるのかという御質問がございました。

 現在の司法制度についても、精神医療制度についても、長い歴史の中で、その目的を達成するために、最良のものとして検討されてつくり上げたものだと思います。しかし、その運用状況を見ますと、改善すべきところとして指摘されている点は、たくさんあります。

 司法鑑定の面で現行制度の運用状況を見てみますと、特に起訴前の捜査における精神鑑定のやり方に問題があると指摘されているところであり、今回の我々の提出した検察庁法の一部改正法案は、その問題となっている点を改善しようとするものであります。

 このたび池田小学校事件で被告人となった者についても、過去、数々の軽微な犯罪行為を行ったときに、今回の我々の改正案に基づいた体制が整えられ、きちんとした精神鑑定が行われていたならば、その時点で適切な刑事処分がなされることによって、犯人に遵法精神を呼び起こし、今回の池田小学校事件のような重大な犯罪に至ることを防げたのではないかと考えます。

 次に、中村議員から、現行の精神鑑定制度に問題点はないのか、この点について提出者案にある鑑定センターの設置は何を目指しているのかとの御質問がありました。

 この点に関しては、司法手続における精神鑑定、特に起訴前の検察官による捜査段階での精神鑑定が適切に行われてこなかったとの指摘があることは、ただいま御説明したとおりであります。

 その指摘を、もっと具体的に説明いたします。

 起訴前の検察官捜査段階での鑑定は、通常、長くても一日で終わってしまう簡易鑑定の件数が多く、しかも、地域によっては、鑑定人を探すのが難しいために、鑑定依頼先が特定の精神科医に偏っていたり、司法精神鑑定の知識や経験が十分でない精神科医に鑑定を依頼していたりするというのが現実であります。しかしながら、残念なことに、このような実態把握は、簡易鑑定が各地の検察庁でばらばらに行われているために、はっきりとはできておりません。

 また、起訴後の精神鑑定においても、鑑定をした精神科医によって診断名や鑑定意見がしばしば違うなど、適正な精神鑑定が行われているのか疑問が持たれております。そして、起訴前の精神鑑定と同じく、正確な実態把握は、裁判官任せで鑑定が行われているために、はっきりとはできておりません。

 そこで、このような状況を踏まえて、先ほどの趣旨説明でお示しいたしました、裁判所法の一部改正法案及び検察庁法の一部改正法案を提出したわけであります。

 これらの法律に基づき、最高裁判所と最高検察庁にそれぞれ司法精神鑑定センターを設置することにより、精神鑑定の鑑定人選任についての裁判官や検察官の負担を軽減することができるとともに、刑事事件における精神鑑定について、とかく批判がある鑑定精神科医の偏りや鑑定結果のばらつきなどを防ぐことができるものと考えます。

 また、最高裁判所と最高検察庁のそれぞれの司法精神鑑定センターが精神鑑定に関する情報の収集や分析で協力することにより、司法における精神鑑定のより正確な実態把握が可能となるとともに、より高度の精神鑑定技能を開発していく道を開いていくことも期待できると考えております。

 どうぞ、皆様方の御理解をいただきまして、我が民主党の対案について、御審議いただきまして、賛同いただきますようお願い申し上げます。(拍手)



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